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002...髪を掻き分ける

まさか屯所で耳掃除と膝枕はできませんので、今土方さんは私のアパートでくつろいでいます。
文字通り寛いでるだけで、たまには甘い言葉の一言だって欲しいのにさっきから一っ言も喋りやがりません。
油断したらこのひとは簡単に寝ちまいそうです。それは近藤局長が許しても、沖田さんが許しても、万屋の銀さんが許しても、この私が許しません。
もし寝ちまいやがったそのときは、この耳かきで土方さんの鼓膜をぶち破ってやります。

「おい花子、」
「はーい?」
「お前今ものっすごく嫌なこと考えてただろ」
「あら、そんなことないですよ?私はいつだって土方さんが気持ちよくここにいられるように、そればっかり考えてるんですから」
「・・・・・・」

あぶねーあぶねー。
さすがは鬼の副長です。私ごときが発する殺気なんてジミー(新八)の毛筋ほどにも及ばないだろうに、それを察知するとは・・・。

「ご飯、食べていきます?」
「・・・ん?ああ」
「今寝ようとしてたでしょ」
「なわけねーだろ・・・考え事だ考え事」

本当は疲れてるんだろうなってことはわかってるんだけど、ちょっとでも長く一緒にいたいのです。だって、たまの休みの日にはいつもここに来てくれるから。わがままを許してね。
サラサラの前髪が瞼にかかってくすぐったそうだから、片手ですくって掻き揚げる。

「あら?」
「どうした?」

見間違いではない。耳かきを膝の横に置いて、両手で髪の一房をつまみ上げた。

「やっぱり・・・」
「おい、どうしたん・・・」
「あ、ちょっと待って動かないで!」

起き上がろうとした土方さんを言葉だけで制した。とはいってもこれでは二人とも身動きがとれない。

「土方さん、白髪・・・」
「あ?」
「白髪ですよ、知らないんですか?白髪」
「いや、知ってるけど」
「どうします?抜きます?」
「別に、ほっといていいんだが」

至極どうでもよさそうに、土方さんはまた瞼を閉じた。おい、このままで寝ようってのか。

「えいっ」
「痛ぇっ!!おま、抜くんなら抜くって言えよ!」
「目が覚めました?」
「おーよ、おかげさまでな」

むくりと起き上がって、土方さんは背伸びをした。そういえば耳掃除途中だったけど、いいか。再開したらまた寝そうだし。
それにしても、いつもいつも綺麗な黒髪って思ってたのに、意外だしショックだった。多分、というか絶対この人は白髪が生えようが髭が伸びようがどうでもいいんだろうけど、それを見る私の心が痛むのです。
屑篭に白い一筋を放りながら、そりゃ、しょうがないとは思う。
だって上司はあのゴリラだし、部下にも恵まれてなさそうだし、万屋はトラブルばっかり持ち込んでくるし。
ストレスが多少溜まるのもしょうがないのかもしれないけど、それを煙草で解消するのも仕方ないのかもしれないけど、やっぱりいい気持ちじゃあないんです。
煙草だって体に悪いし、土方スペシャルとかなんとか言って高コレステロールなものばっかり、というかマヨばっかり食べてるし、この人私より先に死んじゃうのかもしれないなんて考えちゃう。そんなの、嫌。

「土方さん、」
「あ?また白髪か?」
「ね、旅行に行きましょう?命の洗濯です」
「旅行?ばか、そんなに簡単に、しかも長期の休みなんて取れるわけねーだろ・・・」

申し訳ないと思っているのか、土方さんの語尾は少しだけ小さかった。

「そういうときの万屋ですよ」
「意味がわかんねえ」
「とにかく!旅行に行くって言ったら行くんです!どこにします?」
「お前は言い出したらきかねーからな・・・」
「休み、取ってくださいね?」
「・・・わかった。努力する」

土方さんはあくびを一つしてからまた私の膝を枕にして横になった。今度こそ本気で寝るつもりだろう。
でもま、許してあげます。だって約束してくれたから、旅行。
愛しい人の髪を撫でながら、私は本当に万屋に駆け込もうかと思っていた。休暇について。
だって、真撰組は忙しいし、その上この人はその組織のナンバー2なのだ。
ああ言った手前、きっと土方さんは休みをもぎ取ってくる。多分、簡単にはいかないだろうけど。
近藤局長が許さなくても、沖田さんが許さなくても、万屋の銀さんは・・・関係ないけど許さなくても、もぎ取ってくるのが土方十四郎なのだ。
もし休みの許可をしやがらなかったときには、この耳かきでゴリラの鼓膜をぶち破ってやります。

お妙さんに頼んで。


「土方さん、マヨネーズ買いだめしてますからね」


されど夢の中には声は届かず

- end -

20080719

フォロ方さんもかっこいいですよね