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005...枝毛を探す

雨の日は外に出る気になれない。私はホルマジオから借りたDVDを流しつつ、ペッシから借りた本を読みつつ、イルーゾォのお土産のお菓子を食べながらソファでゴロゴロしていた。はて、イルーゾォはどこに行ってたんだっけ?まぁいいか。このお菓子はすごくおいしい。それだけで十分だ。

「何してるんだい?ジェーン?」

まるでそれがベッドであるかのように私が寝転がっていたソファの空きスペースに腰を下ろしたのはメローネだった。
両手にマグカップを二つ持っている。この香りはコーヒーだ。

「あらメローネ、ありがとう。気が利くのね」
「残念、これはジェーンの分じゃない」
「ええ?いいじゃない、頂戴よ」
「しかたないね・・・まあでもプロシュートは好みにうるさいから自分で淹れてもらおう」

ちょうど甘いものを食べていたから、コーヒーが欲しかったところだった。グラッツェと言いながら、私はソファに座りなおした。メローネと並んで。
なんだかんだ言ってるけど、メローネは優しい、というか甘い?のかな?ブラックですすっている私のかたわらで、彼は自分のカップにスティックシュガーを2本入れている。ミルクはべとべとするから入れないのが彼の好みらしい。

「何コレ?何の映画?」
「ホルマジオが貸してくれたの」
「ジェーンはこういうのが好きなの?」
「んーん」
「じゃあホルマジオのシュミなの?」
「しんない」

私たちの会話は大体こんなふうで、生産性のないものばかりだ。無為に時間を過ごしているのかも知れないけど、気を張る必要も気を遣う必要もないってのは非常にありがたいひと時だったりする。

「その雑誌は?」
「ペッシの」
「ふーん。ね、このお菓子食べてもいいの?」
「イルーゾォのお土産だよ。どこのか知らないけど」

「おい、コーヒー頼むって言ったじゃねえか。なんでジェーンが飲んでんだ?え?」

ドアに凭れるようにして言葉を挟んだのはプロシュートだった。

「ごめーん、頂きました」
「うん、そういうことだから自分で淹れてよ、ごめんね」

軽く舌打ちしながら、プロシュートはキッチンに向かった。舌打ちしたけど彼は怒っていない。というかプロシュートは滅多なことでは怒らない。チーム内ではリーダーの次ぐらいに冷静な人だ。冷静じゃないヤツの筆頭は決まってる、ギアッチョ。
プロシュートはカプチーノを淹れるのがものすごく得意だったな、とフロランタンを齧りながら思い出す。

「ねー、カプチーノ淹れるんなら私にもちょーだーい!」
「トイレが近くなるよ、ジェーン」
「メローネ、そんなこと言わないの」

プロシュートは何も返事をしない。まあ駄目元みたいな気持ちで言ったんだから、別に淹れてもらえなくても構いはしないけど。
メローネはフロランタンをつまんだ手をパンパンと払っている。ああ、フロランタンってどこのお菓子だったっけ。

「なんだか髪の毛が残念なことになってるね」

メローネは私の髪を指先でつまんでさも残念そうな顔をした。だって雨だもん、そう言ってもメローネはつまんだ毛先を開放してくれない。

「枝毛」
「あー・・・美容室行ってないから」
「切りに行かないと。残念だよ、ジェーンの髪がこんなになっちゃって」
「でも伸ばしてる最中だからなあ・・・自分で切ろうかな」

メローネにならって髪をつまんでみると確かに毛先が残念なことになっている。

「じゃあ俺が切ってあげる!」
「ほんとー?じゃあ膝枕してよ!」
「いいよ、おいで?」

何が嬉しいのかメローネはノリノリだ。手先を使うことが好きなのかもしれない。
深く考えずに、私は再びソファに横になった。メローネの足は筋肉が付いていて寝心地はあんまり良くない。でも、誰かに髪を弄ってもらうのってどうしてこんなに気持ちがいいんだろうと考えながら、私はホルマジオのDVD(なんか、この言い方だとホルマジオが出演してるみたいだ)を眺めていた。
メローネの手つきは暗殺者らしからぬ、繊細で優しいものだった。どこから出してきたのか、銀色がギラギラ眩しいハサミでちょきちょき切っている。
ものすごく切れ味のいいハサミの音が、私は大好きだ。

「あ、思い出した」
「何?」
「フィレンツェだ」
「だから何が?」
「フロランタンだよ。イルーゾォはフィレンツェにいったんだよ」
「フロランタンってフランスのお菓子じゃないっけ?」
「ん・・・?そうだっけ?」

うとうとしだした私の耳に、プロシュートの「何してんだ?」って声とカプチーノの香り、それから楽しそうなメローネの「毛づくろい?」っていう明るい声が聞こえた、気がした。

- end -

20080725

メローネは、いやらしい意味じゃなくて女の子と触れ合うのが好きそう