眩しい、朝日が眩しい。
「こら、起きろ」
誰かが呼んでる声がする。
「うー…あと5分…」
「それは10分前に聞いた」
そんな記憶、私には無いんだけどな…。どうでもいいからもう少し寝かせてほしい。
頭はぼんやりするし、私は体を小さく丸めて、声の主に背中を向けるように寝返りを打った。
「ほら、いい加減に起きないと朝食の時間が終わるぞ?」
その誰かは、私を揺さぶりながら、今日の朝食は花子の大好きな純和風だったぞ、なんて言っている。ご飯より、目の前の睡眠のほうが大事なんです。
それにしても、誰だろう。軽く目を開いて、ちらっと見てみた。朝日に照らされて、よく姿が見えない。背の高い男の人、ロンド・ベルにはいくらでもいるから、明るさになれていない目は判断できていない。だんだんぼんやりとシルエットが見えてくる。凛々しい眉、ああ、これは…
「なーんだ…竜馬か」
「なんだ、とは失礼だな」
竜馬は再び寝返りを打った私の隣に腰を下ろした。重みでスプリングが沈んで、私の体が竜馬の方にちょっとだけ傾く。
「いつまで寝てる気だ?」
「眠くなくなるまで」
「花子らしい…」
竜馬は呆れたようにため息をついた。そんな音と、スプリングの音が重なる。
「ねー寝かせといてよ、昨日の戦闘で疲れてるんだから」
「我侭…昨日の戦闘に出ていた連中はみんな朝食を済ませているぞ?」
今度はお説教。私は毛布を頭からかぶって、それから逃れようとした。いかん、竜馬と喋った所為で意識がはっきりしてきた。今、何時ぐらいだろう。
「花子、」
寝るったら寝る、そう決めた私は竜馬の言葉を無視した。
「起きてくれないと困る」
「花子、聞いているか?」
「…寝たのか?」
うん、寝てます。ていうか寝かせておいてください。
「……はぁ」
また、ベッドのスプリングが音を立てた。私の体の傾きが微妙に変化した気がする。
「ずっと気になってるんだが、」
心なしか竜馬の声も近くなっているような…。
「…脚、目のやり場に困る」
脚?言われてみれば太股から下がスースーする。寝るときはホットパンツにキャミソールだし、毛布を撥ね退けていれば見えているかもしれない。
ちょっとしたいたずら心で、私は目元だけ毛布から出してみる。竜馬はいつの間にか私の隣で横になって肘をついていた。
「あら、気になるの?」
「気にならないほうが、どうかしてる」
さっきから苦笑してばかりの竜馬の脚に、自分の脚をすり寄せてみた。
驚いたように目を丸めて、竜馬は私が被っている毛布をめくった。ニヤニヤしている私の顔を見て、竜馬はちょっとだけ、むっとしてみせる。
「花子、」
「なぁに?」
どういうつもりだ、とでも言いたいんだろう。凛々しい眉は寄せられたままだけど、まんざら悪い気はしていないらしい。からかってみたくなって、私はすりよせた脚を絡ませた。飛び込むように抱きつくと、竜馬は私の髪をくしゃりと撫でた。
「こら」
「竜馬、あったかーい…」
「起きないと、」
「やだ」
「起きないやつは、こうだ!」
「ひゃっ!ちょっ、や、…だめだめ!!ひ…あははははは!!」
髪を撫でていた竜馬の腕が、私の脇の下をくすぐった。転がるように笑う私、手を止めない竜馬。
じゃれあう私たちに飛ばされた毛布が床に落ちていった。
ある非日常の朝。
- end -
20080830
どうにも竜馬さんは神聖視しがち