100 Title



010...頬杖

「恋わずらいに一票」
「また艦内で迷子になったに一票」
「えーと、じゃあ僕は“今日の晩御飯何かな”に一票」

アーガマの中を鼻歌交じりに歩いていると、食堂の中を窺うように立っている人影が見えた。
聞こえてきたのは彼らの会話。上から、さやか、ライディース少尉、雅人くん。変な組み合わせだ。

「なにしてるの?」

好奇心から、一番近いところにいた雅人君に声をかけてみる。
と、彼はびっくりしてこちらが飛び上がらんばかりの声を上げた。

「わっ!」
「ちょっと!声大きいわよ!…あら、ジェーンじゃない」

さやかが私に気づく。ライディース少尉も。それでも二人とも食堂の方に注意がいっているようだ。
そもそも、食堂はもう閉まってる時間なのにみんなして何をやってるんだろう。

「なになに?なんかおもしろいことやってるの?」

彼らに割り込むようにして中を覗くと。

「…面白いといえば面白い光景だ」

場違いなくらい真面目腐った口調でライディース少尉が呟いた。私に言ったのかもしれないけど、独り言かもしれない。まあ、目に飛び込んできた光景を見ればそんなことはどうでもよくなってしまうんだけど。

「拾い食いでもしたんじゃない?」
「ジェーン、それはさすがにひどいよ」
「…マサキもそこまで落ちぶれていないだろう」

じゃあどこまでなら“マサキも落ちぶれたものだ”で済ませられるのだろうか。少なくとも私の目には、はっきりとした違和感を伴って、彼―マサキ・アンドー―の姿が映っている。
鮮やかにサイバスターを駆り、クロとシロという使い魔を引き連れた凛とした少年。鮮やかに、そして盛大にあらゆるところで迷子になってしまう“方向音痴の神様”でもある、マサキ。いつもあっけらかんとした口調と明るい緑色の髪がトレードマークの彼が、今テーブルに頬杖をついてむっつりと黙り込んでいる。しかも一人。
おいおい、なんだか柄じゃないぞ、マサキ。
これは確かに面白い。察するに、さやかたちは頬杖の原因を話し合ってたわけだな。

「じゃ私、食あたりに一票。米俵一俵!」
「なんだコメダワラって」
「まぁまぁ。じゃあ意見も出揃ったし、確かめに行きましょ!」
「あーその前に!当たったら次の半減休息でなんかおごり!」
「賛成!じゃあ…」

その場の4人でじゃんけんをした結果、負けてしまった私がマサキに話を聞きに行くことになった。

「えー?なんかわざとらしくない?」
「大丈夫大丈夫!」
「マサキがそこまで勘がいいわけがない」
「いってらっしゃーい!」

三人に背中を押されて、私は若干ギクシャクしながらマサキに近づいた。笑顔が引きつっていないか気になる。

「やっほーマサキ!座ってもいいかな?」
「あぁ…?」

ぼんやりとした視線がこっちを向いたかと思うと、

「でっ!ジェーン!?」

ガタンと大きな音を立てて、マサキは後ろに椅子ごと飛びのいた。

「な、なに!?」
「おっ、おどかすんじゃねーよ!!」
「驚いたのはこっちよ!声かけただけでそんなリアクション取られるなんて!」

腰に両手を当てて、私はとても心外だとアピールした。
マサキは椅子を戻して「悪ィ」とだけ、ぶっきらぼうに言った。こういうところはいつもと変わらないのに、視線があちこちをさまよっている。

「ねぇ、こんなところでどうしたのよ?なんか悪いモンでも食べたんじゃないの?」
「お前な…俺をクロやシロと一緒にするなよな…」
「じゃあ何?また迷子になって落ち込んでるの?」
「今度はガキ扱いかよ。なーんでもねーよ。ちょっと一人にしてくれよ」

片手で頬杖をついたまま、マサキは空いた手をひらひら振りながら私を追い払う仕草をした。
マサキだって、私のこと猫か何かと思ってんじゃないのかしら。

「なによー。折角人が心配してんのに…じゃーねっ!」

結局椅子に腰掛けることもなく、頬杖の理由を聞き出すことも出来ず、私はさやかたちのところに戻った。どうやら一部始終を見守っていたらしい。

「聞き出せなかったよー。賭けはナシってことだね」

私がため息混じりに言うと、3人はにんまりとしながら顔を見合わせて、

「いや…さやかの勝ちだな」
「だぁから言ったでしょう?女の勘は当たるものなの!」
「ちぇーっ。でも、マサキもそういうこと、あるんだなぁ…」

そのまま私に背を向けて、皆は歩いていってしまう。残された私はわけもわからずにおろおろとするだけ。

「え?え?どういうこと??ちょっ…ねぇってばーー!!」

- end -

20081128

マサキがかわいらしくてしょうがないのです