100 Title



011...あっかんべぇ

「ええぇ!?一緒に出かけるって行ったじゃんか!」

私は人様のお宅で、はしたなくも大声を出してしまっていた。微かに煙草の匂いのする部屋に足を踏み入れるのも久しぶりだ。
目の前の承太郎からは、いつものように「うるっせぇーゾ!このアマ!」なんていう汚い言葉は出てこない。真っ黒の学ラン姿ではなくてでっかいスウェットの上下の承太郎は寝起きだからだと思う。ちょっとだけぼんやりした目元が色っぽくて、それだけでほだされそうな自分を必死に隠そうとした。

「あー…悪ィ」
「なんで行けないのよ」

ベッドの上に胡坐をかく承太郎は、ボサボサになりかけてる頭をガシガシとかいた。

「いや…すっかり忘れてた」
「忘れてた!?」
「今日、花京院と約束しちまってた」

今の今までこんなパジャマ姿なだけでも本当にむかつくってのに、よりによってダブルブッキングなんてありえない。

「マジで悪かった。埋め合わせは今度絶対する」
「ちょ、ちょっと待ってよ!」

話は終わったとでも言わんばかりの承太郎は、煙草に手を伸ばしかけた。冗談じゃない。

「先に約束してたのは私じゃないの!?」

掴みかかるように抗議した私にちょっとたじろぎながら、承太郎は視線をさまよわせた。

「いや…花京院と約束してたの忘れて、お前と約束しちまった」
「………」

カチッと乾いた音を立てて、承太郎はライターで火をつけた。フッと息を吐く音と、煙の匂いが漂う。
何よ、承太郎のバカ。すごく楽しみにしてたのに、おしゃれだってバッチリしてきたのに。
何も言えないでいる私と一緒にいるのは、承太郎もそれなりに居心地が悪いらしい。普段から口数が少なくても、なんていうか、発するオーラとか息遣いで解る。
お互いに何もいえないでいると、承太郎の部屋のドアがノックされた。聖子おばさんだろうか。

「あれ、花子さん?」

ドアを開けたのは花京院君だった。グレーのチェックのシャツに、薄紫色のニットのカーディガンを着ている。私は彼のことを、密かに“シンプルおしゃれ君”と命名していた。
そのおしゃれな花京院君も部屋の中に漂うなんとも言えない雰囲気に気づいたようで、ちょっとためらってから、その身を滑り込ませてきた。

「遅いから上がらせてもらったよ」
「悪ぃ。俺、シャワー浴びてくるわ」

スウェットの承太郎はそそくさと部屋を出て行った。多分、そそくさ、なんてそういう風に見えるのは私だけだと思うけど。
残された花京院君に、私は当たってしまいそうなのが怖かった。
でも案の定、傍目から見ても気合の入った格好をした私が承太郎の部屋にいるのがおかしいと思えるのは当然のことで、花京院君はそのことを私に尋ねてきた。

「だって、承太郎が私のこと忘れちゃってるんだもの」
「花子さんを?どうして?」

事の仔細を説明すると、花京院君はふふっと笑った。ちょっとへこむ。

「どうして笑うの」
「え?あぁ、ごめん」

片足を立てて床に座っている花京院君はそれでも笑みを浮かべたままだった。

「承太郎、きっと嬉しかったんだよ」
「は?」

どこがどうなって、そんな結論にたどり着くのかさっぱり解らない。私がバカみたいに口を開けて首を傾げていると、花京院君は前髪を弄りながら続けた。ていうかそれは前髪なんだろうか。

「花子さんに誘われて、僕と約束してたこと忘れちゃうくらい、舞い上がってたんじゃないかな」
「へっ?」
「でも承太郎はきっちりしたタイプだから、先に約束してた僕を優先しちゃうんだろうね」
「ああ、そういうタイプだよね、承太郎」
「埋め合わせするって言ったんでしょ?」
「…うん」
「不満?」

少し考えて、その実頷くのがちょっと癪なのを隠そうとして頑張ってみて、結局私は首を縦に振った。

「じゃあ一緒に来る?」
「どこに行くの?」
「ゲーセン」

ぷっと笑ってしまったのは、あのでっかい承太郎がクレーンゲームにてこずってるのを想像しちゃったからだ。何をやらせても人並み以上に飲み込みが早い承太郎が、そんなことは絶対にないんだけど。
でもちょっとぐらい今日は困って欲しい。花京院君の言葉を信じるなら、もうすでに困ってるんだろうけど。

「支度できたぜ」

ガチャリと開いたドアから、承太郎が顔を出した。今日も真っ黒な服に身をつつんでいる。

「ねぇ、承太郎」
「何だ?」
「ゲームセンター行くんでしょ?私、欲しいぬいぐるみあるから取ってきて欲しいなぁ」
「んなもんどっかで買えばいいじゃねーか」
「ヤダ。承太郎に取ってきて欲しいのッ!」

心の中で舌を出しながら、私はわがままを突き通した。やれやれだぜ。いつもの言葉が聞こえてきそう。

- end -

20090106

承太郎ラブ!マジにジョジョはイケメンしかいねーぜ。