100 Title



012...ゆるい口

探偵見習いでヤタガラス見習いの私は、ライドウさん曰く「向いてない」そうで。

「喋りすぎなのだ。花子は」

黒猫姿の業斗童子は呆れるように、しかも欠伸しながら私に言う。そうですか、私への言葉なんて欠伸のついでみたいなものですか!

「わ、わざと言ってるわけじゃないですからね!これは、つい!」
「余計にタチが悪いな」

言い訳は業斗童子にあっさりと切り捨てられた。
猫じゃらしを使ってもこっちを向いてくれない。ちぇーっと口を窄めてから、私はライドウさんを見上げた。
今は初夏で、私やタヱさん(彼女がいるところではちゃんと葵鳥さんって呼んでる)なんか半そでの服を着ているのに、彼は長袖の学生服に外套を羽織って、なんだか近寄りがたい雰囲気だ。
でも近寄りがたいのは見た目だけで、本当は優しい人。向いてないなんていうのも、負けず嫌いな私をたきつけているのだと思いたい。信じたい。
だからそれに頑張って応えようとするのだけれど、ついさっきも聞き込み中の相手に捜査中のことを色々喋ってしまった。
この性格、ありがたがってくれるのはタヱさんぐらいだ。ああ、きっと探偵社に帰ったら鳴海さんにねちっこく怒られるんだろうな。

「あーあ、空が眩しい…」

銀座町の高いビルの影から見上げる空は高い。お昼時を少し過ぎて、皆勤務に戻ってしまったのだろう。人通りも落ち着いてきた。
しゃがみこんでいる私も、通りを観察しているライドウさんも黙っていた。
喉が渇いたなぁとか、ライドウさんをキネマに誘ったら来てくれるかなぁとか、筑土町のあの女学生の本気はすごいよなぁとか、そんなことを考えていた。

「たまには、感謝している」

え、と小さく声を上げて、ライドウさんを見あげた。
通りを見つめている顔はどんな表情なのかわからない。

「ライドウ?」

業斗童子も意表を突かれたように頭を上げてライドウさんに歩み寄った。
すっと私が立ち上がっても、ライドウさんはまだ、前方の通りを見つめたままだった。

「…ライドウが無口だから、花子ぐらいのおしゃべりで釣り合いが良いとでも?」

業斗童子の言葉は的を射ていたらしい。軽く頷いて見せたライドウさんが笑うのがなんとなくわかった。

「えっ、そうかなー…やっぱそうかしら?」
「やれやれ…おだてるとすぐにこれだ。そのゆるい口を塞ぐ術でもあればよいのだが」
「やめてよ!そしたら富士子パーラーで何も食べられなくなっちゃうでしょ!あ、調査が一段落したら富士子パーラー行きましょう!ね?」

私と対照的なくらい無口なライドウさんは、頷くのと同時に「いいよ」と言ってくれた。

- end -

20090124

ライ様はどんな喋り方なんだろ