少佐が、二年ぶり(ぐらい)に帰ってきた。
「おかえりなさいませ、ご主人様」
「誰が貴女の主人ですって?」
どうやらご機嫌斜めらしい。
「ちょっとした冗談じゃないですか」
「つまらないこと言ってる暇があったら」
「はいはいはい、作った防壁のプロトタイプならここに!」
「さっさと出せばいいのよ、出せば」
少佐は首の後ろからプラグを伸ばすと、私のほうに差し出した。
ここには私と彼女しかいない。さっきまでバトーさんがいたみたいだけど、『物理的身体を手に入れた』タチコマたちをつれてどこかへ行ってしまったようだ。
「まぁまぁね」
「それはどうも」
私は公安九課で主にプログラミングをやっている。主に、というかそれしかやっていない。むしろそれしかできない。スペシャリストだらけのここに、なんでまた私がいるのか時々不安になる。それは、私だって自分の仕事には多少は自信がある。
気にしているのはそういうことではなくて、私の地頭の悪さなのだ。
難事件を解決していく皆を見ていると、教養って大事だなぁと痛感する。私の頭はプログラミングだけに特化していて、それ以外のことは何にも知らないようなもんだ。ぶっちゃけタチコマのほうが優秀な気がする。何か一つだけのスペシャリストより、オールマイティーにできる人のほうが、優秀なのだ、きっと。
なんていうか、アンテナが四方に向いている人、になりたい。
「そんなこと気にしてる暇があったら、勉強でも何でもすればいいじゃない」
「はぁ、簡単に言ってくれますけどね。私は少佐の一番嫌いなタイプ、頭でっかちの…」
「よく言うわ。どっちかというと空っぽなんじゃないの?」
「あ、ひどー…」
私が眉を下げると、少佐はカラカラと笑った。
なんだか前にも、こんな風に笑われたことがある気がする。
私たちは半分ほど残った缶ビールを分けて、『おかえりなさい』と『ただいま』の乾杯をした。
- end -
20091206
そういえば女性相手(?)は初めて書きました