100 Title



040...抱きしめたくなる

「なぁ、帰るなんて言うなよ」

終電に間に合わないからと、彼に背を向けて鞄の中身を戻そうとしていると、突然後ろから何もかもを引っつかまれたような衝撃を感じた。
実際のところ、それはほんの気のせいでしかない。
この男は一体どうしたことか、泣きじゃくる子供が恥ずかしがってそうしているように、先ほどから布団をかぶって指一本、私の目に触れさせないようにしているのだから。

何があったのかは、知らない。

「一人きりだと世界に見捨てられたようで、惨めになる」

貴方、もう十分に惨めかもしれないわよ。
かわいそうなかわいい男にそんなことを言うほど私も酷い女じゃないけれど、ほんの少しだけ嗜虐心がくすぶり始めたような気がした。
酷いことを言ったら、もっと甘えるのかしら、すがりつくのかしら。
いつだって飄々と生きている貴方の、惨めな姿がもっと見たい。

「火村、私にも生活があるの。しなければならないことが山積み、」
「知ってるよ」
「そうね。わかってて言うんだからずるいわ」
「それも知ってる」

馬鹿な人ね。
振り切って出て行くのは簡単だけれど、もし真っ赤に泣き腫らした目で私を見て、名前を呼んでくれたら優しく抱いてあげるのに。

- end -

20110703

脆いのに強がってんのが英生の魅力ですね。