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042...手を口の傍にやって考えるフリをする

柿食えば 鐘が鳴るなり 法隆寺

なんつって。
どこまでも高い空の下、ざかざかと色気のない音を立てながら何をしているのかと言うと、ただの掃き掃除。
中庭は落ち葉が敷き詰められていて、掃いたそばからどんどん落ち葉が舞ってくる。
妙に完璧主義なところがあると自負している私は、それがちょっと許せないのでさっきから躍起になってかき集めていたのだ。
けれど、さすがに追いつかなくて、空を見上げて小休止しながら正岡子規になりきっていたのだった。
法隆寺なんてここにはないし、多分柿の木もないけど。

「やや、山田さん」
ぼけっとしていると背中に声がかかった。口調から察しはついているし、振り返ってみるとやっぱり若王子先生だった。
「お掃除ですか?」
「はい」
「感心感心」
「先生、掃除時間なんだから当たり前ですよ」
みんな掃除してますし、と付け加えながら苦笑すると、先生も言われて初めて気がついたような顔をして苦笑した。
「すごい落ち葉ですね」
「はい、掃いたそばから積もるんです」
「それは大変だ」
白衣の後ろで手を組んで、先生もぼーっとした顔で二三度頷いた。
「秋ですからねえ」
「そうだね…………」
先生は私と落ち葉の山と、順繰りに視線を移して黙り込んだ。
「どうかしました?」
口元を覆うようにして考え込んでいる先生の顔が真剣なものになる。
「山田さん、」
「はい」
「焼き芋したくなりますね」
なんだろう。と、こちらも真剣になったのが馬鹿馬鹿しくなった。
「はぁ?」
気の抜けた声で返事をすると、先生は平和な顔をして続ける。
「いや、その落ち葉の山を見ているとどうも……食欲の秋って言うでしょう?」
「言いますけど……学校で焼き芋なんてやったら怒られますよ」
「やっぱりそうかなあ……」
心底残念そうだ。
「そうですとも。教頭先生を筆頭に、氷上くんとか千代美さんとかから……」
「うーん、残念」
なんて言っている先生を尻目にざかざかと落ち葉の掃き集めを再開させると、先生はまたぼんやりした声で言った。
「秋ですねえ」
「はい」
ぼんやりは私にも伝染して、また空を見上げながら、あの雲はサツマイモの形に似ている、なんてことを考えてしまった。

- end -

20101102

みんなで焼き芋会すればいいのに!