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051...手の大きさくらべ

ギュンター・プロイツェンが行方不明になって、ルドルフ殿下が皇帝陛下にご即位なさって、早いものでもう一年が経過する。
近頃はといえば、戦争が終わったおかげか大掛かりな事件もない。辺境の基地ではたまに、山賊まがいの輩が村を襲ったりしているのを鎮圧に行っているらしいけど。
ここ、私の勤務する基地は、田舎とは言えレドラーに乗っていけば帝都から一時間もかからない。栄えた街の近くにあるから生活の不便さも感じない。

毎日があくび交じりにゆっくりと過ぎていくだけ。
そんなある日、この基地に於いて第一装甲師団の視察が執り行われるというニュースが入ってきた。
「第一って言ったらぁ、シュバルツ大佐の隊じゃない!」
「やだぁ、どうしよう〜」
「今からエステ行くしかないよねえ〜!」
女性士官たちがそわそわしだしている。私はといえば、シュバルツ大佐とはちょっとしたご縁で顔見知りではあるので、公式な発表の前に連絡を受けていた。
なんてことを知られては彼女らの変なやっかみを受けかねないので、いつもどおりにあくび交じりの平和な日々をすごしていた。

三日後の査察の日も、私はあくび交じりに自分のデスクで頬杖をついていた。
私の視線の先、モニターの中で、大佐は基地主任となにやら話し合っている。
本当に美形だし、紳士的で物腰も優雅だし、お家は代々軍人を輩出してきた由緒正しいシュバルツ家の長男だし。
女の子たちがきゃあきゃあ言うのも確かに納得だ。
場所は格納庫で、斜め上から写しているカメラでは帽子のつばに阻まれて表情が読めない。
けっこう、華奢なほうだと思う。色白で色素の薄いブロンドにエメラルドの目。帝国の人、って感じの見た目。
並んでいる基地主任が色黒で大柄な、どちらかというと共和国の人って感じの、実際国境付近の出身の方だから余計にシュバルツ大佐が中性的に見えてしまう。
その実、射撃も体術もゾイドの操縦もお手の物で、決してお家柄だけで大佐まで上り詰めた人ではないのだからすごい。
あ、それも女の子がきゃあきゃあ騒ぐ一因になっているのか。納得。

帝都のホマレフ宰相にお送りする報告書を抱えて通信室に向かっていると、
「ジェーン」
シュバルツ大佐に呼び止められた。隣には主任がいるけれど、大佐は体よく追い払ってしまう。
「では失礼いたします」
「ああ、ご苦労だった」
廊下で二人きりになってしまった私がまず心配したことは、こんなところを女の子たちに見られたら質問攻めにあって無駄な体力を使ってしまいそうだということ。
「大佐、私、通信室にいかないと……」
「では私も行こう」
なんでそうなるのかわからないけれど、しかし通信室に入れば人目もないだろう、ということで私は気持ち速めに廊下を歩いた。
通信室はセキュリティが厳しく、ついでに使用できる人間も限られているから誰かがいるとか誰かが来るとかは、まずない。
制帽を脱いでいる大佐の頭は、私よりも高いところにある。
こうやって私と並んでいると、あ、男の人なんだなあと思う。

パスコードの入力と虹彩認証をクリアして通信室に入ると、大佐はものめずらしそうにあたりを見回した。
「すぐに終わりますので」
私にわざわざ声をかけてきたということは、何か用があるんだろう。大方、面倒くさがって帰らない実家からの言伝とか。
「いや、ゆっくりでかまわないよ」
「え?」
「そのままで聞いてくれさえすればいい」
「は―――」
はい、と言おうとして、言葉につまった。
大きなモニターの下にあるタッチパネルを操作していた私の後ろから、大佐が覆いかぶさってきたから。
背中に密着する大佐の腕は、私の手を軽く握った。
「たたたた大佐!?」
これでは話を聞くどころか仕事ができない。
「何だ?」
「ひえっ」
肩に顎を乗せられていて、耳の近くで声が響く。
男の人にしては高めの声だよな、なんて考えている余裕はなかった。
「ああああのあのあの、これはどういう……」
「どういう、と言われても」
軽く笑ってるみたいだ。小刻みに揺れるからだに合わせて、大佐の柔らかい髪が私の耳をかすめた。くすぐったい。
「そろそろ帝都に戻ってきてはどうかと思ってね」
左腕が私の腰に回されてしまった。逃げられない!
私は顔を俯けて、大佐の右手をじっと見ているしかなかった。
きっとNOと言おうものなら、この人は私なんて軽々と抱えて帝都に連れて行くんだろう。諦めるしか、なかった。

- end -

20101004

大佐は私の初恋の人なのです。ついったの大佐botと会話してたらいつのまにか夫婦になっていた記念。