100 Title



075...足の爪で足を掻く

  ヒロイン:流行魅力パラ系、紺野にあこがれる一年生
  新名:一年生。ヒロインに対して恋愛感情皆無の親友というか不憫なしもべ
  紺野:三年生

  という特殊設定です。全体的に某ラノベです。





ついてねー。マジついてねー。
朝っぱらから抜き打ち服装検査とかマジありえねー。

「そこの二人!こっちへ!」

たまたま途中の曲がり角で山田と出くわして、いつものように「紺野先輩がかっこいい」だのなんだのかんだの聞かされながら登校した結果がこれだ。
しかも生徒会長直々の指導とか、ありがたすぎて涙がちょちょぎれるレベル?

「お前のせいで俺までストップかけられてんだけど」

思えば偶然出くわしたのだって不幸の予兆だったのかもしれない。なんであと五分早く出なかったかな俺。今更考えたってしょうがねえけど、やっぱり山田は俺にとって不幸の源としか思えない。
八つ当たりの軽口を叩いても返事がない。何だコイツ。憧れの玉緒さんにしかられて屍になってんのか?
ずいぶん低いところにある頭を覗き込んでみると、

「朝イチに紺野せんぱいと会っちゃったぁ……」

…………………………。
とろーんとしまりのない顔で山田は夢の世界にトリップしていた。
ここまでポジティブ思考のヤツ、俺は初めて見た。ポジティブになるのはいいけどお前も俺もその元凶の玉緒さんに呼ばれてんだよ。
生きる屍と化した山田の腕をひきずって、俺たちは手招きする玉緒さんの目の前に並んだ。
めんどくさそうな顔してるだろう俺と違って、山田は相変わらずしまりのない顔だ。
玉緒さんは逆に、今日もビシッと凛々しく決まってる。確かにいい男なんだろうなとは思う。
思うけど、そんないい男はだらしなく脱力しきったお前みたいな女を相手にしねーと思う。なんてこと言おうものなら向う脛蹴られて悶絶するのがオチだから言わねーケド。
それに、いつまで経っても後輩どまりで、せいぜいが“妹みたいな”が枕詞につく程度にしか認識されていないだろう女の心配をしているヒマはなかった。

「新名君はちゃんとボタン留めて、ネクタイもきちんと締めて」
「うーす」
「それからピアス。外すように」
「えー…………」
「えー、じゃないよ」
「そーよニーナ。外しなさいよ」

違反者の癖になんで玉緒さんの肩持つかな…………。
じとりと睨むと山田はクスクス笑っている。こいつ…………。
ネクタイをきゅっと締める俺を確認すると、玉緒さんは今度は山田に向き直った。

「山田さんも。リボンは?どうしたの?」
「ひゃい!あのあのその、く、かっ!かばんの中っ!」

アホだ。油断して噛みまくってる。

「鞄の中?あるんなら今着けて」
「はわっ!はははははい!」

がさごそと鞄の中あさってるけど、まー年頃の女の鞄とは思えない混沌状態。
リップクリームが三本にでっかい鏡にメイク道具入れてるポーチに、全部アナスイかよ。あっ、キュッパ落ちたぞ。

「鞄にも色々ついてるな……。まぁ、指定鞄だからいいけど、あんまりごちゃごちゃしてると没収するよ?」
「ふえっ!?」
「それからスカートも短いよ。曲げてるなら伸ばして、そのセーターも指定じゃないでしょ?」
「…………はい」
「明日からはちゃんと、指定のセーターを着てくるように」

俺以上に叱られて、とうとうポジティブさを投げ出した山田はしゅんとうなだれている。腰のあたりをごそごそしてるのはウエストで曲げたスカートを戻してんだろう。うわ、伸ばした長さありえねー。そのダサさが自分でもわかってる屈辱的な顔、まさに般若。
まぁ、しょうがない。俺が言えたことじゃないけど違反はよくない。とは言っても、こうやってさっと直しちゃえばこっちのもんだし、ということで、

「あのー、俺もう行っていいすか?」
「ああ、新名君はもういいよ」
「んじゃ、おつかれっす――」

そそくさと山田の前を通り過ぎようとしたら、ものすごい力で腕を掴まれた。
とても女とは思えないこの腕力。山田を振り返ればものすごい形相で俺を睨んでいる。実に般若。

「……なんだよ」
「ああああアンタバカでしょアホでしょ脳みそ入ってないでしょなんで二人きりにすんのさバカバカバカ!ちょっとは容量不足の頭働かせなさいよ!」
「ちょ……なんっ、」
「うるさい。……ばらすわよ?」

理不尽。
ばらす、というのはあのことだ。俺が高校入学前に街角で手当たり次第に女の子に声をかけていたこと。何の因果かそれを山田に見られてたってワケで。
もちろん手当たりしだいなんてことはない。ちゃんと吟味して厳選した上で……。
なんて、そんなことこいつに言っても説明してもしょうがない。どうせ山田は話を盛りに盛るに決まってる。
そういうわけで俺は半ば脅迫交じりの“友達づきあい”を強制されているのだ。
それにしたって二人っきりにするなとはまた、とんでもない要求もあったもんだと思う。ホントこいつ、変な女だよな。

「山田さん、聞いてる?」
「はいっ!あ、いや、あえっ!?」
「君も高校生なんだから、もうちょっと落ち着きを…………」

ざまみろ。
本心から呆れた顔の玉緒さんにくどくどと叱られて山田はなおのこと項垂れるしかない。
ちっとは反省してんだろうと思ってたらそうでもなかった。
なにをもぞもぞしてんだと思って視線を下に落とせば、こいつ……普通さぁ、妙齢の乙女が片足のつま先でもう一方の足かくか?

「コラ!」
「ひえっ!?」
「みっともないよ」

さすがに目ざとい。もとい、しっかりしてる。
玉緒さんは今度は眉間にしわまで寄せて山田をじっと見ている。
山田はといえば、“みっともない”なんて言われて心ここにあらず。放心状態でフラフラしてた。
みっともない、なんて、こいつにとっちゃ“そのグロスあってない”とか“イマドキそんなストラップありえない”とか“音楽の趣味悪くない?”とか、そういうプライドズタズタの台詞より破壊力抜群の台詞だろ。
じゃじゃ馬でも一応は恋する乙女ってか。
同情する気はさらさらない。ただ心配してるのは落ち込みまくった山田が怒り狂って俺に八つ当たりしないかどうかだけ。
薄情者だと言うなら言え。俺はこいつに毎日振り回されてんだ。
とはいえ、さすがに睫を震わせて泣きそうな顔をしているのはかわいそうと言えばかわいそう。なんだかんだでこいつは女で、男は女の涙に弱いんだ。
玉緒さんはどーなのって思いながら視線を移すと、ちょっと困ったような顔でこんなことを言った。

「女の子なんだから、そういうことはしないように」

まぁ、そうだよなあ。そういう無難な反応だよなあ、って思ってると、

「おんなのこ…………」
「わかった?」
「はははははいっ!」
「よし、それじゃ二人とも行っていいよ」

なんだこいつ。
顔は赤いしさっきよりとろーんとした目つきだし、なんか踵は半分宙に浮いてるし……。天に召されかかってんのか?

「山田さーん……?」

恐る恐る山田に声をかけると、フクロウかよってくらいの勢いでヤツは俺を振り返った。

「女の子だって!女の子っ!」

いや知ってるよ。いろいろ残念な女の子だよお前は。

「紺野せんぱいが、わたしのこと女の子って!」
「ちょっ、だぁもう!わかったから落ち着け!」
「きゃー!どうしよどうしよ!」
「がっ!ちょ……!おえっ!?」

ハイハイ!女の子扱いされて嬉しいのはわかったから!ネクタイ掴んで振り回すのはやめろ!
首絞まる!ギブギブギブ!!

「やばーい!今日ってホントついてるー!キャー!ねえニーナ、放課後お茶しよ?ケーキおごったげる!」

いらねっつの。
やっと開放されたというのに俺の呼吸は乱れっぱなし。マジで女と思えない腕力……それにつきあってる俺、マジありえねー。
なんか、俺にこそイイコトあったっていいんじゃねーの?ホント神様って不公平。

「ねー、ケーキ何がいい?今週からイチゴのショートリニューアルだよ?」
「……なんでもいー。つーかお前アレ、足掻いてたの水虫?」
「うる、さい!」
「〜〜〜つーーー!」

きました。向う脛にローキックのクリーンヒット。
ホント、理不尽で不公平。

- end -

20120426

『とらドラ!』を見てるとビジュアル的な意味で「みのりん=バンビ、北村くん=玉緒さん」、性格と見た目的な意味で「竜児=琥一」にしか思えなくなっていましたが自分でもびっくりするくらいにハマりました。
この設定で一年12ヶ月を書いてみたいなあとか思ってます。