100 Title



081...楽な姿勢で

こんなにも好きなんですよ。って、あっさり言えたら楽になれるかな。

「飯嶋さん、飯嶋さん」

24歳上、わたしの丁度二周り年上の飯嶋さん。
ちょっとだけ他より浮かんでいる頬骨が色っぽい。色っぽくて大人っぽいのに、一人称が『僕』だったり、時折浮世離れしてるようにも見える振る舞いがすっごく気になる人。
気になるといえば彼の境遇もそうかもしれない。
46歳でバイトとしてここ(職場のコト)にくるなんて、よっぽど、言っちゃあ悪いけど社会不適合だったのかしら。すごくまっとうな人に見えるんだけど、事実は小説より奇なり、ってヤツかもしれない。
聞きたくても聞けないけど。
ううん。そういうこと聞かないでいたら、彼につりあうような大人になれるのかなって、ずるいことばっかり考えてるから。
私なんてたかだか同じバイト仲間の女子大生ってしか思われてないかもしれないのに。

「どうしたの、山田さん」
そういえば、眼鏡をかけると幼く(若く?)見える人って珍しいかも。
私はそんなことを考えながら、ラウンジのテーブル越しにじっと強い目を見つめ返した。

「今から、開さんって、呼んでもいいですか?」

やだなぁ。ちょっとずつ距離を詰める作戦のはずなのに、なんだか遠まわしに告白をしてしまったみたいで。
赤い顔をコーヒーの湯気のせいにしたい私を、彼はちょっと驚いたように見ている。
「……うん…………というか山田さん、」
「はい?」
あれ、呼ぶのはいいのかな。
「肩、凝ってない?」
「……はい?」
何を突然、と怪訝な顔をしつつ、別段肩にもどこにも異常を感じないから首を横に振って見せる。
「そうか」
彼は笑って、私の方に手を伸ばした。え、え、なんなの。そう思う間もなく、私は流れるまま流していた髪を耳にかけられる。
まるでスローモーションのように感じる指先の暖かさは、離さないでほしいっていう、私のあさましい願望のせいかしら。
彼の手が離れていく刹那に、儚げな花の香りがしたような気がした。
何かを払うような仕草をしながら、彼は何かをひとりごちる。
「律の言うとおり、全く気付かない人もいるものなのか……」
「え?」
何て言ったの?って聞くと、
「名前で呼んでもいいよ、って言ったんだ」
開さんはまた、笑ってくれた。
何だか今までよりずっと、近くに感じるような笑い方が、私はとても嬉しかった。

- end -

20110703

勢いにまかせて開さんを…………。や、だってかっこよかったのでつい……。