100 Title



094...木登り

空条徐倫は悪いヤツだ。暴走族に入ってるし、こないだなんてバイクを盗んだって。
みんながそういっても、徐倫はわたしの大切な親友。
徐倫、またいつか、あのころみたいに遊べるよね。

家からちょっとはなれたところに小高い丘があって、大きな樫の木が生えている。
幼馴染のわたしと徐倫は、ときどきそこへ遊びに出掛けたことがあった。
「徐倫、あぶないよぉ!」
「ダイジョーブだって!ジェーンはホント弱虫なんだから」
ひょいひょいと自由に手足を動かして、徐倫は樫の木によく登った。あまりそういうことが得意じゃないわたしは、ハラハラしつつも本当は、徐倫のことがうらやましかった。
「ジェーン!おいでよ!」
木の枝に腰掛けて、徐倫はわたしを呼ぶ。
「む、無理だよ!そんな高いところ、いけっこないよ!」
「なによぉ。すっごくいい眺めなのに」
呆れて口を尖らせる徐倫には悪いけど、木に登らなくったって丘の上からの眺めは抜群によかった。
わたしの家、徐倫の家、まるでお人形の街みたいに小さくなった住宅街を眺めるのはとても気持ちよかった。
「あ、いいこと思いついた!」
「なぁに?」
徐倫は風に前髪をさらわれながら、目を細めて景色を眺めていた。
「今度、親父に作ってもらう」
「何を?」
「ハシゴ!ロープでね。そんで、この木の枝にたらすんだ。そしたらジェーン、アンタだって上ってこれるでしょ?」
「え……でも、わたし……」
「そっからでも眺めはいいけどさ、木に登るとカクベツなんだって!ね?」
樫の木の葉っぱの合間から光が差し込んで、徐倫の笑顔がすごく眩しかった。
「…………うん!」
「よし!約束だよ?」

徐倫、ハシゴはできてたのかな。それとも誰かが外しちゃったのかな。
全寮制の学校に入って、徐倫と連絡することもできなかった。とても厳しくて家族以外に電話するのも一々面倒な手続きをしなくちゃいけなかったから。
夏休みに家に帰ったとき、徐倫にまつわる変な噂をたくさん聞いた。
そりゃ、彼女は大人しいとかおしとやかとか、そういうタイプの子じゃなかったけど、でも人を傷つけたりするような子じゃないもの。
悲しくなって、丘に向かったわたしが見たのは、今も変わらない樫の木の佇まいだけだった。
徐倫、元気かな。
木の幹はごわごわした感触で、木登りしてた徐倫はいつだって擦り傷だらけになってたことを思い出した。

空条徐倫は悪いヤツだ。暴走族に入ってるし、こないだなんてバイクを盗んだって。
みんながそういっても、徐倫はわたしの大切な親友。
徐倫、またいつか、あのころみたいに遊べるよね。
わたし、待ってるから。約束だよ。

- end -

20101209

6部読むと悲しくなります。