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098...いつもフラフラ

「どうして、こんなことするの?」
「だって今月ピンチで、みんなからご飯おごってもらおうと…」

はぁ。ため息しかでない。
琉夏くんが”屋上一周”なんて、危なっかしいことをした理由がそれだけじゃないのはもちろんわかってる。
でも本当の理由を聞けるほど、私は強くない。
なんだか触れるのが怖い。

放課後、なんとなく立ち寄った商店街の書店でいつものファッション誌を買う。8月号は水着と浴衣の特集で、ショッピングモールのショップでもフェアをやってたなぁと思い出す。
お洒落にはお金がかかるなぁ。と、考えながらレジの前で財布を覗き込むと、平積みにされた本に視線を奪われた。
「あっ」
そうしよう、それが一番いいかもしれない。
一番じゃないかもしれないけど、今はきっとそれがいい。
迷うことなく、上から三冊目を引き抜くと、あっけにとられたレジのお兄さんに差し出した。
意外に高かったけど、先月からはじめたバイトのお給料がもうすぐ入るから、ギリギリいける!で、アナスタシアのケーキ我慢すればいける!
「ありがとうございましたー」
紙袋に入った雑誌二冊を抱えて、私は帰路を急いだ。ショーウィンドウの向こうの、ケーキを食べながら歓談するカップルたちには意図的に視線を遣らずに。

翌朝。
眠い。部活にも入ってないのになれない早起きなんてするもんじゃない。
おかげで数学の時間に氷室先生に怒られるし。ついてない。
ようやく迎えた昼休み、私は屋上への階段を上っていた。

「あれっ?花子ちゃん」
背中に声がかかる。琉夏くんだ。
「どうしたの?今日は一人?」
「そうだよ」
「ふーん…じゃあ一緒にご飯食べる?」
きた。でもちょっとスムーズに行きすぎだ。
あと、一緒に食べる?とか良いながら琉夏くんは例のごとく手ぶらだ。もはやきにすることでもないけど。
「うん。そのつもりだったの」
「そのつもり?」
「よかった、食堂とかに行ってなくて。ね、いこう?」

きょとんとする琉夏くんを屋上へと連れて、給水塔の影に座る。
鞄の中から取り出したのは、
「はい、お弁当」
「えっ………」
実は、自分の分と琉夏くんの分と二つ作るつもりだったのに、なれない作業の所為で多く作りすぎてしまって、こんな重箱サイズになってしまった。
「あ、二人分でも大きいよね…うん、ちょっと分量間違えちゃった」
絶句したままの琉夏くんに、照れ笑いでごまかそうとする。
「花子ちゃんが作ったの?」
「……うん。でも、味は多分大丈夫」
「俺のために?」
「………は、半分は、ね」
「ホント?」
「…………そうだよ」
ああ、段々恥ずかしくなってきた。
「ほら!今月ピンチとか言ってたし!それに偏った食事ばっかりしてちゃだめって言ってるでしょ?」
今度はもっともらしいことを言ってごまかそうとする。
給水塔の影じゃ、暑さの所為で顔が赤いなんていいわけもできなさそうで、私は段々顔をうつむけていった。
「そっか……ね、あけてもいい?」
「……どうぞ」
「…お」
琉夏くんは巨大弁当箱の蓋を開けると、ぱぁっと笑った。
「俺、おにぎり大好き」
「そうなの?」
てっきり、サンドイッチなんかが好きそうに見えてたから、どうだろうと思ってたけど。
「ホント。あ、卵焼きだ。それにエビフライ、俺の好きなものばっかりだ」
「……よかった」
「ホント、よかった」
「もう!」
琉夏くんが、私がしたように胸に手を当てて安堵のため息をつくもんだから、ちょっと拗ねてみせる。
「それより早く食べよう?こんなおいしそうなお弁当、みんなほっとかない」
「人のお弁当とるのは琉夏くんぐらいだよ…」
「そうかな?」
「…」
「ごめん。じゃあ、いただきます」
丁寧に両手を顔の前で合わせる琉夏くんを見て、大事なことを思い出した。
「あっ!」
「びっくりした!どうしたの?」
「お箸…私のしか入れてない…」
これじゃあ食べられないよ。そういうと、琉夏くんはまた笑った。なんか嫌な予感がする。
「花子ちゃんが俺に”あーん”してくれたらいいよ」
「えっ!?」
「だってそれしかないでしょ?」
「…ちょっ……そんな」
「ね?だって、さっき思い出したけど今日、俺の誕生日だし」
……そうだったっけ?
「あ、疑ってるな?」
「ううん!」
「じゃあ、俺に”あーん”して?プレゼントはそれでいいよ」
「お弁当はカウントされないんだ」
「違う違う」
琉夏くんは髪をかきあげながら、
「手作りのお弁当を食べさせてもらえるのが誕生日プレゼント」
「……今日だけだからね?」
「やったっ」
うう、恥ずかしい…でも確かに私が忘れちゃったんだから、しょうがないといえばしょうがないのかも。
「でもお弁当は毎日でもいいなぁ」
「………月に一回くらいなら」
「ホント?」
あ、琉夏くんが目を輝かせてる。
でもいいかな。昨日買った本、『彼につくりたいお弁当』の出番がこれっきりじゃちょっと悲しいから。

- end -

20100701

ハッピーバースデーるか!
(初回プレイ時にどうやって誕生日調べれんのかわかんなくて一年目スルーした思い出をこめて)