その続きの物語



こんなに泣きたいのは初めてだ

そうしてその日の夜、自邸に戻ってきたガトーは、意外すぎる訪問客のことを聞かされた。

「ジェーンが?」
「はい」

外套を脱ぎながら、彼は眉間に皺を寄せた。
ジェーンもまた、例の騒ぎを姉あたりから聞いているだろう。それで、わざわざ自分のところまで押しかけて、何を言うつもりなのだろうか。少し恥ずかしがりながら、こんなことになるなんてとわめいてもらえればそれがいい。だが、心のそこからこんなことはイヤだとでも言われた日にはどうしようか。
執事は冷静な顔つきで、着替えの服を差し出してくる。

「……何か言っているのか?」
「いえ。現在マリアンヌがなだめておりますが」
「なだめる?」

マリアンヌ、というのはガトーの乳母だ。母親を幼くして失くした彼にとっては母親にも等しい。
それはともかく、ジェーンをなだめると言うのはどういうことか。彼はカフスをはずす手を止めて執事に向き直る。

「ええ。ジェーン様はひどく消沈なさっておいでで…」

今度ばかりは一寸うろたえながら、引退間際の執事は答えた。
その言葉に、ガトーの顔から血の気が引く。怒っているのならばまだしも、落胆しているということはつまり、この騒ぎが、ひいては自分との関係を勘違いされるのがイヤだということだろうか。

(ジェーンは、俺では不満なのだろうか。それとも、まさか他に心を寄せる男がいるのだろうか。だとしたら、俺はまずいことをしてしまったのだろうな。馬鹿みたいだな、俺は。)

「大旦那様も、客間においでです」
「父上まで、まさか誤解されているわけか?」
「…誤解かどうかは存じませんが、とにかくジェーン様をお慰めになっているご様子で…」

20091211

title from たしかに恋だった (⇒「選択式」から3つお借りしました。)