2nd Anniversary.



真昼間の我侭

宇宙空間は太陽の位置がよくわからない。
見えるところならばまだしも、艦内で太陽の位置を知ることはほとんど不可能だ。もっとも、そんなことは知ったところであまり意味は無いのかもしれない。
ちらりと腕時計を見ると、それこそ地上では太陽が頭上に輝いていそうな時間帯だ。
夜と言う概念すらあやふやだが、徹夜明けの頭で私は半ば動揺し、半ば諦めに似た感情を、目の前の男に抱いていた。

「大佐…」
「…ん?」

金色の髪の先端が、いやらしく頬を掠めた。ああ、いやらしいなどと感じてしまうあたり、私も熱に浮かされているのかもしれない。
クラクラする。
この部屋は私の執務室で、恒常的にロック状態のドアは私とネオジオン総帥の大佐以外は簡単には入ってこられない。軍属ではないが、私は戦艦レウルーラに配置されている。元はアクシズで文官だった私は大佐の目に留まり(それも今となっては真実なのかどうか、わからないが)、書類などの処理は一括して私と部下の手に委ねられている。
私の使う、座り心地の非常に良い椅子には何故か大佐が座っている。それはまだ解る。
解らないのは、何故大佐に抱えられるように私が乗っかっているのかということ。
制服のタイトスカートが、開いた太股にぴっちり張り付いて、窮屈だけれど自分でもなんだかいやらしいと思う。大佐の腕は私の背中と臀部に回され、体を引き寄せられている。前傾姿勢だから振り落とされる心配などないのだけれど、私は大佐の首に両腕を回していた。一体、何にしがみついているのだろう、私の精神は。

「いけません、大佐…」
「何がいけない?」

徐々にスカートがずり上がっていくのがわかる。ガーターベルトのクリップが見えてはいないだろうか。
つつ、と腰の周りから太股をなぞられた。空調が効きすぎているのか、大佐の指先が冷たい。冷たさと、素肌を触られた感覚で私の背骨の中を何かが走り抜けていった。二重の感覚は私を大きく震わせる。口元から熱いため息だけが零れ落ちた。

「もう…まだ、午後の2時ですよ」
「そうだな」
「大佐…」

大佐の片手が、制服の上から私の下着のホックを撫でている。
形を確かめるようにゆっくりと、執拗に。
撫でられているだけで外れるわけも無いのに、私は妙に落ち着かなかった。

「時間が気になるのか?」

わざと、なのだろう。大佐は私の耳元に湿った息を吹きかけるように尋ねた。

私の仕事の時間など、ご自分の意志でどうとでもなるというのに。
仮に急ぎの仕事だとしても、おやめになるはずも無いのに。

「いいえ…けれどせめて、場所くらいはわきまえていただきたいものです」

軽く苦笑しながらそういうと、大佐も苦笑した。

「ここには誰もこないだろう?」
「そういうことを申しているのでは…」

あ、と短い声が漏れ出た。
大佐が私の首筋に唇を当て、血液が大きく脈打つ筋を舌でべろりと舐めた。
ゾクゾクする。
そのまま制服の上着に手をかける大佐の手を、私は止めた。
予想以上に容易く止まった右手に、逆に私が捕まえられる。一度体を離した大佐は、別段困ったような風でもなく、私にいたずらっぽく笑いかけた。

「では、何が不満なのだ?」

何が不満なのだろう。このまま私が大佐に満たされるのは目に見えているのに。
もう一度、私は大佐の腕に深く抱きかかえられた。
暖かい。眠りに落ちていくときのように、意識にもやがかかっていくような感覚に落ちる。

「不満など、ございませんけど」
「私を困らせたかっただけかな?ジェーン?」

大佐の腕が、上着の中を侵食している。背中を這い上がってくる手の冷たさが、薄いブラウス越しにじわじわ伝わってきた。

「困っているのは私です」
「不満などないのだろう?」

音も立てずに、私の下着はブラウスの上から外されてしまった。若干の開放感と、肌から浮いてしまった下着が微かに肌を掠める感覚がなんとも形容しがたい。
だがそのまま大きな手がブラウスの中に入ってくるのかと、淡く期待していたのに、大佐は私の上着のボタンを一つずつ必要以上にゆっくりと時間をかけて外していく。わざと、こういう風にしているのだろう。
私が最初、ためらっていた所為だろうか。その報復で、シャア大佐はこんな風に、焦らすような真似をするのだろうか。

「焦らさないで下さいな」

思い切ってそう伝えると、大佐はボタンを外す手を止めて口付けをしてきた。触れるだけの、軽いキス。
まさかこのままお預けなんて。と、目を閉じたまま抗議するように太股に力を入れて大佐の両足を締め付けてみる。
大佐は唇を離すと、今度はブラウスのボタンを外しにかかった。

「服を汚してはいけないからな」

意地の悪い笑みを浮かべながら、大佐は片手でボタンを外す。本当に、我侭なお人だ。
まるで大きな子供に駄々をこねられているようだ。

「かまいませんよ」
「そうか」
「ええ」

全てのボタンを外されたブラウスの間から、素肌が顕になる。人差し指の爪で臍の上をつつとなぞられ、胸の谷間から下着を、大佐はずり上げた。もはや私の体は粟立つような期待だけに支配される。
捻じ伏せて、征服して。


「大佐の、お好きなように」

- end -

20080813