俺の名前はジェリド・メサ。このミノフスキー学園でも屈指のいい男だと自負している。これは決して思い上がりでも自意識過剰でもない。所属する空手部の試合はもちろん、練習中にさえ女子生徒が集まるし、高校に入ってから女子に告白されたのは両手両足の指を総動員しても足りないくらいだ。
しかし、俺には特定の付き合っている女ってのはいない。カクリコンに言わせれば「えり好みしすぎ」なんだそうだが。けど実際、好みでもない女と付き合ったってつまらねえだけだと思う。
「あっ、ごめんなさい」
学校が終わって昇降口で靴を履こうとしていると、女子生徒が一人、俺の肩にぶつかった。すれ違いざまというわけではなく、どうやら歩き出そうとしたところ足がもつれて頭から俺の体に突っ込んできたようだった。
小柄で、俺の肩よりもずっと低い位置に頭がある。一目見ただけでさらさらなんだろうとわかる髪、石鹸のような香り、不覚にも一瞬ドキリとしてしまった。
「ああ。大丈夫か?」
「へ、平気です…!その、すみません…」
あわてているのか、へどもどしながら前髪を整えつつ、彼女は顔を上げた。
「あの…?大丈夫です、か…?」
***
俺の名前はカミーユ・ビダン。このミノフスキー学園でも屈指のドジな幼馴染を探している最中だ。一つ年下の、名前はジェーンというその幼馴染はドジというか天然というか、四六時中ぼんやりしている困ったヤツだ。彼女の母親に「この子、ちょっとぼんやりしてるところがあるから、カミーユ君、悪いけどしばらく一緒に学校に連れて行ってくれないかしら」と頼まれたのが一ヶ月前の入学式。ジェーンは、中学は別のところで友達もまだいないから俺に白羽の矢がたったのだろう。とんだ災難だ。と、愚痴りたくなったわけではなかった。
まぁ、その、ジェーンは可愛いし…。
いやいや、こんなことを考えている場合じゃなかった。方向音痴のアイツのことだから、放って置いたら見当違いのところに迷い込んでしまうかもしれない。
「あー、カミーユさんじゃん」
「今から部活?」
階段の踊り場で会ったのは一年のジュドーと、同じクラスのルー・ルカだった。確か、ジェーンはジュドーと同じクラスだったはず…。
「いや、そうじゃなくてさ、ジュドー、ジェーン見なかったか?」
「ジェーンちゃんなら、HRが終わるのと同時に教室出て行ったよ。急いでた感じだったから、昇降口か、もう帰ってるんじゃないかな?」
ジュドーの言葉を聞き終らないうちに、俺は駆け出した。
「カミーユさん!?」
「ありがとう!」
「なんだかんだでカミーユも甘いのよね、きっと」
***
ちょっと待て。いくら一年でもこんなに可愛い子がいるとは知らなかった。これぞ天啓、神のお導き。
俺は彼女に近寄った。
「あの、何です…か?」
「用がなきゃ話しかけちゃ駄目なのか?」
「いえ…あの私、急いでるんで」
「まぁ、待てよ」
下駄箱と俺に挟まれた彼女は、怯えたような顔をしている。おかしいな。俺がこんなことして、照れはしても嫌がる女なんていないだろうに…。
「名前だけでも聞かせてくれねえかな」
「ジェーン…です…」
「いい名前だな」
「そっ、そんなの聞いて、どうするんですかっ…後で私のこと、体育館裏に呼び出してぼっこぼこにしちゃうんですかっ」
「はぁ?」
本気で涙目になりそうなジェーンに、俺は目を丸くした。これはどう見ても口説いてるだけなんだが。回りくどい手は使わずに、真っ向勝負でいこうかとしたとき、
「ジェーンッ!」
「へ?あ!カミーユ!」
「カミーユ?なんでここにい…あ、おい!」
廊下からの大声に一瞬気を取られて、その隙にジェーンはカミーユの元へ走り去ってしまった。
カミーユの背後に回りこむジェーンと、かばうように立ちふさがるカミーユ。おい、これじゃあまるで俺が悪役じゃねえか。
「下級生に何してるんですか」
カミーユはギロリと俺を睨んでくる。なんだ?ジェーンってのは、カミーユの女だったのか?まぁ、まだそうと決まったわけじゃないんだろうが。
「何もしちゃいねえよ。お前が来たせいでな…邪魔しやがって」
「あなたがこんな脅迫じみた卑怯な真似をするなんて、思ってもみませんでしたけどね」
「…言うじゃねえか」
にらみ合う俺とカミーユを交互に見比べて、それからジェーンはひそひそとカミーユに耳打ちをした。と、カミーユは呆れたような顔をして何事かを返す。何を言っているのかさっぱりわからんが、カミーユから何かを聞いたジェーンは納得したような顔で俺を見て、
「あ、じゃあこの人が、いつもカミーユが言ってる“自意識も自信も過剰で、なんでこんなのがモテるのかさっぱりわからない。実は口だけなんじゃないのか”の、ジェリドさん?」
「バカ!聞こえるだろ!」
「もう聞こえてるぞ!テメェ、カミーユ!」
「えっ?えっ?うわっ…」
「逃げろ!ジェーン!」
「待ちやがれ!」
「きゃーーーーー!!カミーユ、ところで私、土足なんだけど!」
- end -
20090924
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