虹のワルツ

11.取り出した秘密兵器(ミヨ)


はー。文化祭当日。クラス展示での私の出番はお昼すぎから。それまではクラブの展示の手伝いをしたり、ちょっと歩き回ってみたり。甘いものをちょっとつまみながら、私はA組の子達の押し問答を何故かさっきから見守ってる。
「聞いてないんだけど……」
「言ってないらしいからねえ」
「あの、ちょっと待って……ほんとにこれ、着るの……」
あたりまえじゃん。そうだよ。二人が着なかったら買った意味ないし。みんな楽しそうに次々に口にする。
あーあ。バンビも夏碕も困ってる。荷物置き場兼控え室の教室は、A組の生徒たちが占拠してる。なんで私がいるかっていうと、カレンに「ミヨも来てっ!楽しいことがあるから!」って、無理矢理引っ張られてきたから。
中に入ると、バンビと夏碕が詰め寄られてる。クラスの子たちが持ってるのは、黒っぽい布の塊。
「ほらあ、バンビも夏碕も観念しなさーい?せっかくカレンさんがかわいく仕上げてあげるって言ってんだからさあ?」
カレン、楽しそう……。
でも確かに私も見たいかも。

バンビと夏碕のメイド服姿。

先に観念したのはバンビ。おとなしく着替えて、カレンの仕上げとメイクを受けるとまんざらでもなさそうに笑って、「それじゃあ客引きがんばってくるね!」と、ダンボールの看板を持って出て行った。カレンが写メを撮る暇もなかった。いかがわしい感じじゃなかったし、普通にかわいかった。夏碕も着ればいいのに。取り残されて情けない顔で、バンビが行ってしまった方に手を伸ばしている。
「あ!ちょ、美奈子ちゃ……」
「はーい、次は夏碕よー?後で二人並んで写真撮らせてね?」
「カレン!」
夏碕はメイド服のワンピースとエプロンを抱えて半泣き。
「もー……いい?みんな期待してるんだし、これ着て校内一周してくるだけじゃない?」
「夏碕、カレンの言うとおり」
どうにもこうにも埒があかないから、私も続いて促した。
「…………わかった」
渋々うなずいた夏碕は、カーテンで仕切られた着替えスペースに入っていった。
「さーて、後は……やっぱり夏碕はハイソックスでいいかな?それともニーハイかな?」
カレン、どれくらい前からこのこと知ってたんだろう……。鞄の中からウィッグまで出てきた。っていうか、私ここに来た意味ってあまりないかもしれない。でもまあいいかと思いながら、買ったワッフルをまた一口、運ぶ。

「ちょ、ちょっとこれ……小さいかも……」
しばらくして夏碕がカーテンの中から出てきた。小さいかも、と言ったとおりスカート丈が膝上10センチだ。バンビと同じサイズを買っちゃったのかな、バンビが着てると丁度良かったけど、背の高い夏碕だとミニになっちゃってる。それどころか背中のファスナーもうまくしめられないみたいで、カレンががんばって上げてる。ああ、胸元きつそう……。
「逆にセクシーでいいじゃん」
「他人事みたいに!」
「でも他人事」
「…………うう……脚がすーすーする」
「はい、じゃあ仕上げ!短くなっちゃったからやっぱニーハイね。それからヘッドドレスつけるけど、髪形は……」
カレン、本当に楽しそう……。

「夏碕、前髪あると雰囲気かわる」
カレンがつけた、斜めに流した前髪のウィッグはすごく似合ってる。かわいい。
「お化粧まで……」
「いいじゃん文化祭なんだし!ほら、早く行かないと!」
「はい、看板」
「笑顔でね!」
「…………行って来ます……」
夏碕がドアを開けると、待ち構えていたクラスの子達に囲まれる。反応は以下。
「えー!?これ瑞野さん!?」「マジやばいこれマジ」「夏碕ちゃんかわいい!」「写真撮っていい!?」「前髪はウィッグ?」
ほら大盛況。主に男子にだけど。
でもクラスメイトのために着たわけじゃないから、見かねた女子たちが助けを出した。
「ちょっと男子!あんたたちのために着たんじゃないのよ!」
「夏碕!ほら客引きに行って!」
「は、はいっ」
夏碕は追い立てられるようにして廊下を走っていった。
なんだかちょっと嫌な予感がするけど、なんとなく大丈夫な気がする。
これも、星の導き。

20100712