虹のワルツ

19.コーヒーとミルクが混じり合う(美奈子)


カレンの部屋に戻って、軽く晩御飯を食べた。八時を過ぎた頃、カレンが「じゃあそろそろはじめよっか」と言いながら私たち三人に、それぞれ一つずつパジャマを手渡した。あ、だから『パジャマパーティなのにパジャマはいらない』って言ってたのか。
「カレン、くまもセットなの……?」
ミヨは鮮やかな黄色いパジャマっていうかネグリジェ、しかもナイトキャップつき。両手でくまのぬいぐるみを抱えているのがとてもかわいい。
「セット!それ持ってなきゃだめ!!」
カレンに言われてしぶしぶ、くまを抱えなおしたミヨのパジャマは裾が長くて、ファンタジー映画の主人公の女の子って感じだ。
カレンはひらひらのキャミソールに、ショートパンツ。別に寝るときだけじゃなくても、ひらひらとかフリフリとか、着ればいいのになあ。本人が気にしてるほど変じゃないと思うけど。
そして私は、昼間に着せられたティアードスカートのように、下がフリルのスカートになっているホルターネックのワンピース。パイル地で着心地は最高なんだけど、寒いからパーカーを羽織ってる。ついでに脚も寒いって言ったら、カレンがもこもこのレッグウォーマーを貸してくれた。っていうか、普通の長袖のパジャマを着れば早い気もする……とは口が裂けてもいえない。
夏碕ちゃんは、文化祭のメイド服をちょっと長くした感じの黒いワンピースに、ピンクのフリルがところどころについた、ナイティドレスという……ネグリジェ?みたいなもの。髪にはカーラーがついてるけど、「雰囲気重視!」と言っていたカレンが付けた、実用性度外視のかわいいピンクのカーラーだ。
「うーん!眼福!」
カレンは今日一日、本当に最後まで楽しんでいるみたい。
広いベッドに寝そべったカレンが、床に座った私たちを見回しながら本当に満足そうに言った。
「カレン、おじさんみたい……」
「ふーんだ!そういうこというミヨから写真撮っちゃうからね!」
「!やだっ、やめて!」
デジカメ片手にベッドから起き上がったカレンから、くまのぬいぐるみで顔を隠そうとするミヨがかわいくてしょうがない。
ところでミヨがファンタジー映画だとしたら、夏碕ちゃんはフランス映画のヒロインでカレンは香港映画?クリスマスもチャイナドレスだったし。で、私は日本のトレンディドラマの主人公かな?とか思ってしまった。おこがましいかな……私。
夏碕!助けて!」
ミヨが夏碕ちゃんの胸元に飛び込むと、カレンはそれすらも楽しんでいるように二人まとめてファインダーの中に収めているみたいだった。
カレンもかわいいんだから、写メ撮ってしまおうかと考えたけど、モデル業のせいで写真を撮られることに慣れているカレンに対しては何の逆襲にもならないんだろうな。と、思ってやめた。
「いいじゃない、かわいいんだし」
夏碕ちゃんがミヨの頭を撫でながら言った。なんか……ううん、親子だなんてことはいえない……。
「そーよ。夏碕の言うとおり……っていうか、じゃあ夏碕を先に撮ろうかな?」
「えっ……誰にも見せないなら別にいいけど……」
なんとなく、あれっ?と思った。それは私だけじゃなかったみたいで、カレンの動きも一瞬止まる。ミヨが夏碕ちゃんを見上げながら、
夏碕、ちょっと変わった……」
「うん……前まではさ、写真撮ろうとしたら“やだー!やめてー!魂吸われるー!”って言ってたのに!」
そうだったんだ……いや、でも文化祭のときもそうだったもんね。うん。
「魂吸われるとか言ってないよ!」
「それは冗談でー。ていうかさ、何か全体的に変わったよね、やっぱ」
「自覚はないけど……でも母さんにも言われた」
「花火大会のとき?」
そう、といいながら夏碕ちゃんはミヨを抱えなおした。なんていうか、くまを抱えたミヨを抱える夏碕ちゃん、やっぱり親亀小亀孫亀?
夏碕ちゃんのお母さんは、花火大会の日にちょっとびっくりしていた。
『お友達と遊びに行くのだってそんなになかったのに、浴衣着て花火大会なんて……雨が降るっ!明日洗濯できないじゃない!』
変わったお母さんだと思うけど、夏碕ちゃんのことを心配してたんだろうなあと思った。
「あ、そうじゃん!ってことはぁ、やっぱ恋の所為?」
カレンが目をキラキラさせてる。
「違うよー?」
夏碕ちゃんは落ち着いていた。ここでちょっとでも慌てていたら、それは本当ってことなんだろうけど、そんな余地もない。
「強いて言うなら、美奈子ちゃんのおかげかな?」
「私?」
「うん。なんか色んな経験させてもらってるし」
…………それって某兄弟がらみのことかな。苦笑してるし。
「ずーるーい!アタシたちとも遊んでくれなきゃいやっ!」
カレンが夏碕ちゃんの片腕にしがみつく。おお、親亀の横に…………うーん、友亀?
「遊んでるでしょ」
ミヨがツッコミながら夏碕ちゃんに身をすりよせた。もてもてだ。
「じゃあ今度さ、みんなでバレンタインのチョコ作ろうよ?」
私も便乗。琉夏くんじゃないけど、妹亀!カレンとは逆のほうの腕にしがみつく。
「あ、それいい!賛成!」
「でも……バンビ、バレンタインってことはつまり……」
「あー!?バンビ、好きな人いるの!?」
えっ。
どうしてそういうことになるのかわからなかった。何もやましいことがないのに口ごもってしまったせいで、「気になる人いるの?」「誰?」「正直に答えて」の詰問をかわすのに随分時間がかかってしまった。
本当にいないのになぁ。みんな、同じくらい大切な人だから、たくさんチョコを作らないといけないと思って、そう言ったのに。

20100724