虹のワルツ

27.通じない会話に溜息投下(夏碕


夏の大会が終わった。県で3位。全国大会出場ならず。
私たち新体操部のメンバーは、いつものファミレスでささやかな打ち上げをして先輩を見送り、その後の帰り道でちょっとだけ泣いた。
来年は全国に行けるといいね。誰ともなく言い出す。本当に、全国に行ければこんなに嬉しいことはない。

待ち合わせ場所でそのことを思い出していた。
今日はカレンとミヨとショッピング。美奈子ちゃんも誘ったけど先約があったらしくて叶わなかった。そういえば、高等部に入ってからこの三人で遊ぶのははじめてかもしれない。
夏休みも終わりにさしかかったはばたき駅の中にたたずんでいると、見知った顔に出会った。
「あれ、瑞野さん」
「あ。紺野先輩、こんにちは」
生徒会長の紺野先輩とは、美奈子ちゃんを通じてたまに話す。ついでに今年いっぱいはクラスの美化委員なのでそのつながりでも。いつも穏やかで優しくて、たまに「君からも桜井兄弟に言っといてくれないか」と困った顔で頼む姿がおなじみだ。
制服をきちんと着こなして指定鞄を持った紺野先輩は、わざわざ私の前で脚を止めてくれた。
「今から学校ですか?」
三年生は夏期講習があるんだっけと思い出す。
「うん。夏期講習じゃなくて生徒会の用事だけど」
「そうなんですか、お疲れ様です」
紺野先輩の返事は私の思っていたことを汲み取るようなものだった。人の言いたいこととかそういうものを感じ取れる人なのかもしれない。それにしても、主席かつ生徒会長なんてすごく大変だと思う。
瑞野さんは……あ、こんなことは聞くのは失礼かな」
言った後でばつが悪そうにする紺野先輩は、多分私が男の子と出掛けるんじゃないかと思っているんだろう。私は顔の前で手を振った。花火大会の日にもらったブレスレットがキラキラ揺れる。
「いえ、女友達と買い物ですよ」
我ながらちょっと寂しいかもとは思う。でも今のところそういうのはまだいいかなと思ってるのも事実。
「そうか。そういえば夏の大会も終わったんだっけ、瑞野さんもお疲れ様」
「ありがとうございます……ちょっと残念な結果だったんですけど」
「いや、県で3位だってすごいよ」
見てくれた人がいるだけでも嬉しいけど、こういってもらえるともっと嬉しい。来年はなおさらがんばらないと、とも思う。


というようなことがあったのを、買い物の合間に喫茶店で涼みながらカレンとミヨに話した。
「来年は三年生だもんね」
「そっかー。アタシも夏碕も新キャプテンだしね、がんばろうね!?……ミヨは違うみたいだけどぉ?」
中等部でも部長だったけど、高等部は大変かもしれない。
カレンに握手を求められながらミヨのほうを見ると「だって私そういうの嫌なんだもん」だそうで。
「中等部のころもそうだったよね……ミヨは」
夏碕はなんでもかんでも安請け合いしすぎ」
「あ、それある!無理なときは無理って言わなきゃダメよ?」
何故か矛先がこっちに向かってきた。うーん、確かにそうかもしれない。美化委員もそんな感じで決められたしなぁ。でも大したことないし、みんな忙しいなら私がやるのも別に、やぶさかではないんだけど。
そういうと呆れられた。
「いつも甘い顔してちゃダメ!」
「時には厳しくしないと、そのうち大変なことになる……」
「な、なんかミヨが言うと怖いね……」
まるで予言みたいだ。
このままだとさらにチクチク言われそうなので、無理矢理話題を変えた。
「そ、そういえばさ、もうすぐ修学旅行だね!二人とも予定とか決めてるの?」
少し白々しいのは自覚してたけど、意外に二人とも食いついてくれた。
「ミヨが調べてくれてるモンね?」
「……カレンは少し夏碕を見習うべき」
「ああんもう!いいじゃないの〜っていうかさ、夏碕は一緒に行動する人とか決まってるの?」
……何その、二人して「決まってるよね?」と言わんばかりの顔は。
「まだ決まってな、」
「私、クラスの子と周る」
「アタシはバレー部で行動するから」
先手を打たれた……。ていうか絶対二人、そう言っておきながら当日はしれっと一緒に動くくせに。カレンなんてさっきミヨにまかせっきりの発言したばっかりなのに。
「まだ何も言ってないじゃないの」
「またまた〜!もう決まったようなもんじゃない」
夏碕、バンビを見張る役」
あ、そっちね……。
「別に琉夏くんも琥一くんもそんな突拍子もないことはしないと思うけど……」
レモンティーのストローをすすると、下にたまったガムシロップが一気に口の中になだれ込んできた。
「アレ?別に特定の誰かって言ってないけど?」
「そのメンバーで行動するんだ……ふーん」

………………はめられた。
口の中の甘みにも顰め面。

20100804