虹のワルツ:番外 - if

I am (not) a hero. ( A sequel of the incident... )

二学期。

『新聞部』のプレートがかけられた小さな教室の中でぎゃあぎゃあと騒ぐ二つの声がある。
一つはやや高めの、爽やかな男子生徒の声。
もう一つは、舌足らずのようにも聞こえる、子供っぽい女子生徒の声。

「駄目だったら駄目だ!この写真は使えない!」
「だからなんでですかぁ!?これ、あたしの超力作っていうか、めっちゃいい写真じゃないですか!」
「校内新聞作ってるんだぞ俺たちは!」
「知ってますよぉ!?」
「だったらもっと相応しい写真があるだろうが!」

男子生徒がつき返した写真をひったくるように受け取りながら、女子生徒はじとりと彼を睨んだ。
「(なによぉ……こーんないい写真、この先また撮れるかどーかわかんないのに……部長のおたんこなす!すっとこどっこい!!)」
などと言おうものなら痛烈な雷が降ってくること間違いなしなので、彼女は無言の抵抗を試みる。
が、しかし、部長の決定は覆ることはなかった。
「とにかく!トップ記事は集合写真で決定!終わり!」
「…………」
頬を膨らませる彼女はまだ一年生だが、カメラの腕前を買われて様々な大会に撮影係として出掛けている。
この夏休みも、全国大会へ出場した新体操部の演技を付きっきりでファインダーに収めてきたのだ。
その中で、一番の出来と思われる写真を校内新聞のトップ記事に載せたいのに、部長が許してくれない。それが不満で、さっきからずっとこうして押し問答を繰り返している次第だった。
「(せっかく……いい画が撮れたのにな……)」
一番いい表情を切り取って、それにこの、ピントのずれた手前のほうで舞っている花弁が幻想的な感じですごくイイと思うのに。
しゅんとしている彼女を見かねてか、部長である男子生徒が声をかける。
「……その写真、新聞には使えないけどさ…………本人たちにやればいいだろ。大事にしてもらえるんじゃないのか?」
いい顔してるし。
ぶっきらぼうな彼が人を褒めることはほとんどない。彼女だって、入部して以来一度だけしかその経験はないのだ。
被写体と撮影者の両方を褒めた彼のは、何故か照れくさそうに視線をそらした。
彼女の顔はぱあっと明るくなり、
「ほんとですか……?あげちゃって、いいんですか?」
「……いいよ。焼き増ししてもいい。費用は、部費からちょろまかしとくし……」
「部長……!実は優しいんですね!」
「うるさい。お前が撮った写真なんだから、使えない以上は好きにしろっつの!」
はいっ!
彼女は元気よく返事をすると、放課後の校舎を賭けていく。焼き増しの注文に行くのだろう。

「あーあ、……やれやれ」
残されたその写真を拾い上げて、彼は苦笑した。本当に幸せそうに笑っている、と。
いい写真といえばそうなのだが……。
「ま!でもこれは “祝!新体操部全国一!” には使えないわな。……『ゼクシー』じゃあるまいし」
彼は備品のクリアファイルに、それを丁寧にしまった。そしてパソコンに向き直る。これから記事の推敲をしなければならない。
狭い部屋に、キーボードを叩く音が響きだした。

写真の中には、琥一と夏碕の姿がある。
全ての演技が終わった後の控え室前。
白い大きな花束を持った琥一が、満面の笑みで抱きついてきた純白の衣装の夏碕を、幸せそうな笑顔で抱きしめ返している姿が。

- end -

20110411