3rd Anniversary.



なまけもののしかえし

ブチャラティとジョルノが仕事に出かけて、残されたチームのメンバーはいつものようにレストランでぐだぐだと時間を潰している。
天気がよければ買い物にでも行きたいところだけど、今日はあいにくの雨でそんな気にもなれない。せっかくお給料が入ったばっかりだから、秋物のジャケットとブーツを見に行きたかったんだけどな。
で、他の連中も手持ち無沙汰に過ごしている。いや、勉強するナランチャと、それを教えるフーゴは手持ち無沙汰ではないんだろうけど。
ミスタはさっきからケーキとコーヒーを何杯もおかわりしてはトイレに入り、アバッキオは雑誌をめくりながらヘッドフォンで音楽を聴いている。コイツ、いつもながらほんっとにマイペース。
私はといえば、レストランに置いてあるファッション誌を手当たり次第に捲って、秋物をチェックすることにもうんざりしかけたところだった。
それで、耐え切れなくなって口からぽろっと「暇」という呟きがこぼれたのだった。
案の定、そう思っていたのは私だけじゃなかったらしく、ミスタはフォークをくるくる回しながらうなずいた。

「だな」
「なあなあ、なんかゲームやろうぜ〜」
「ナランチャは勉強してください」
「いいじゃねぇかよォ〜ちょっと休憩をさぁ〜」
「一回だけゲームやろうよ、そしたらナランチャも勉強に戻るでしょ?」

ミスタが欠伸をしながら賛成、と言い、ナランチャは笑顔でうなずき、フーゴもしょうがないといわんばかりにため息を吐いて、結局私たちはトランプで遊ぶことにした。

「何する?」
「大富豪!」
「僕はポーカーがいいです」
「俺はどっちかっていうとナランチャに賛成」

私はトランプを切りながら、アバッキオをちらっと見た。別に大音量で聴いているわけじゃなかろうけど、ちっとも私たちの会話に入ってこない。
くい、と服のすそを引っ張ってみた。
なんだよ、邪魔すんな。
顔がそう言っている。

「ちょっと!アバッキオもこっちに混ざりなさいよ!」
「うるせえ!耳元で叫ぶな!」
「そっちだって叫んでるでしょ!」

ヘッドフォンを投げ飛ばしそうな剣幕で怒鳴られても、ようやく最近動じないようになった。言いあいをする私たちをなだめるように、ミスタは私の手からトランプの山を奪って、

「落ち着けよ。じゃあ七並べにしようぜ。そしたらアバッキオだって音楽聴きながらできるだろ?」
「俺が参加するメリットがちっともねえ」
「じゃあさぁ、最後まで残ったやつが、一番最初に上がったやつの言うこと聞くとか」
「ありがち。ナランチャ、ベタすぎ」
「なんだよ、ジェーンはなんかいい案あるっていうのかよ」

今度は私とナランチャがぎゃあぎゃあ言いあいを始めると、アバッキオが雑誌を私たちの間に向かって放り投げてきた。
間一髪でかわしたけど、私もナランチャも、肉食獣が相手を威嚇するときのように鼻に皺を寄せて睨みを効かせるアバッキオに心底ビビッてしまっている。

「…参加してやる。だから叫ぶんじゃねえ」
「「……はい…すいません」」
「よーし、じゃ決まりだな。俺が配るからな〜」

ちくしょう。こうなったら何が何でも一番乗りして、誰かに秋物のブーツを買ってもらおう。
チェックを入れていたお気に入りブランドの新作ブーツの中で一番高いやつを思い描きながら、ミスタが散らかすように配るカードを一枚ずつ確認した。



「納得いかん…!」

私は残ったカード、ハートのキングをテーブルにたたきつけた。横ではさっきハートのクイーンを場に並べたナランチャがおおはしゃぎしている。
負けたのが納得いかないわけではなくて、いや確かにそれも納得いかないのだけど、何が一番腹立つかって、ヘッドフォンで音楽聴きながら、膝の上からテーブルに立てかけた雑誌を流し読みしながら参加してたアバッキオがいの一番に抜けたことだ。しかもコイツ、私が負けても何のリアクションもナシ!ひょっとして、「どうせジェーンの奴が負けるに決まってる」とでも思ってたんだろうか、ムカつく!

「文句言うなよ」
「大体言いだしっぺは負けるって言いますしね」
「もう一回やってもい…うそうそ!うそだって、フーゴ!」

フーゴに睨まれたナランチャは、シャープペンを取って勉強を再開した。私は相変わらずヘッドフォンを手放そうとしないアバッキオを、頬杖つきながら指差して、

「で?アンタは私に何させようっての?」
「俺、ここの奢りな」
「ミスタは違うでしょ!」
「あーそれ俺も!」
「ナランチャも便乗しない!」
「戻りました……何してるんです?」

ミスタとナランチャがやいのやいのと口出ししてくるのをギャアギャア叫びながら押さえ込もうとしていると、カランとドアのベルを鳴らしてジョルノが入ってきた。ブチャラティは車を別のところに停めにいっているらしい。
ジョルノにミスタが軽く説明をすると、彼は心底“くだらねえ”と思っているような顔をしてすたすたと奥に引っ込んでしまった。

「なんだよ、アイツも便乗すりゃいいのに」
「だよなぁ〜」
「うるさい!私はアバッキオだけって言ってるでしょ!」
「なんだ?ジェーン、昼間から口説いてるのか?」

タイミングよく入ってきたブチャラティはニコニコしながら私の言葉を誤解して喜んでいる。話の流れを知っていたはずのミスタとナランチャも、口笛でも吹き出しそうなくらいにニヤニヤして、

「ブチャラティ!そういうことじゃなくて!もう!アバッキオも否定してよ!」

と、私はなぜか耳元が赤い不機嫌なアバッキオに詰め寄ることになったのだった。

- end -

20091002

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