3rd Anniversary.



僕の権利は君と共に死すること

七カ国連合降伏の数年後設定です。唐突ですがトリッシュ視点)


「………ぜってー、晴れると思ってたぜ」

ミスタはベンチソファにのけぞりながら、かくんと曲げた首の先の頭を青空に向けていた。つられて私も、左手で日差しを遮らざるをえないほど晴れた空を仰ぐ。昨日までの土砂降りが嘘のように突き抜ける青空だ。
「ジェーンの日ごろの行いがよかったからよ」
「そうだな」
軽口ではない返事に驚きながらミスタを振り返ると、彼はそのままの体勢で脱力していた。こんなにおめでたい日に、なんつー態度かしらと私は呆れる。
今日の主役を引き立てるための、私の着ているシンプルなドレスは、それなりに露出があるから日焼け止めを満遍なく全身に塗っている。主役のジェーンのたっての希望で、野外での催しなのだからしょうがない。
まだ始まるまで随分時間がある。主役二人の“大切な友人”として、私たち二人は教会の裏手に陣取っている。お手伝いの名目もあるのだけど。

「なにしみじみとしてんのよ?ひょっとしてアレ?ジョルノに先越されたのが悔しいわけ?」
冗談半分本気半分で言うと、ミスタはようやく体を起こした。
「しみじみってのはあってるけどよ、別に悔しがっちゃいねーぜ……」
最後はため息混じりに。
それがなんとなくおかしくなって、
「でもミスタのタキシード姿なんて、絶対私笑うわ。みんな笑うわ」
「うるせえよ」
大体、今のスーツ姿だっておかしいったらありゃしない。着るんならもっとちゃんと着ればいいのに中途半端に着崩している。
仮にも、大切な友人たちの結婚式だっていうのに。

「ミスタ、トリッシュ」
ジョルノが爽やかな笑みで、裏口から出てきた。
「もういいですよ。ジェーンを見てあげてください」
手伝いで来たはずなのに、「彼女の晴れ姿を最初に見るのは僕の権利であり、義務ですから」なんて言って追い出されていたのだ。私たちは。支度が済んでずいぶんと時間が経っているような気がする。
「一緒に見ればよかったのよ。ジョルノったら子供みたい」
ジョルノの後ろから、ジェーンがしずしずと歩いてきていた。
「ああもう、危ない。ハイヒールなんて普段履かないんだから…」
「子供じゃないんだから、もう!」
慌てて手を貸そうとするジョルノも十分子供っぽいが、それでもこの二人はよく、似合っていると思う。
「すごく…素敵よ。思った以上だわ」
「ありがとう、トリッシュ」
普段よりも何倍も時間と手間をかけただろうメイクを抜きにしても、今日のジェーンは本当に綺麗だ。太陽の光に負けないくらいの、キラキラの笑顔も。
「それから指輪のことも本当にありがとう」
「いいのよ。それに私も、初めての仕事が貴方たち二人のマリッジ・リングなんて、すごく誇らしいし嬉しいもの!」
駆け出しのデザイナーの、本心からの言葉だった。
「ミスタも何か言いなさいよ」
肩を手の甲で叩くようにすると、なんとも言えない顔のミスタはようやく我に返ったようだった。
「あ?ああ…」
「あんまり綺麗なんで見とれてるのね」
好意的に解釈してあげると、うるせぇとぼやく。あたってたのかしら。

「それじゃあ、ドレスの最後の仕上げです」
黙って見ていたジョルノがすっと、ジェーンの頭へ手をのばした。
「目を閉じていてくださいね」
ジェーンにだけそう告げると、ジョルノは白いヴェールをゆっくりと、上から下へ撫でた。その手のひらが離れるや否や、薄い青の花弁がヴェールに散りばめられていく。まるで花吹雪の中にいるようだ。
こんなに幸福なスタンドの使い方もあるのかと感心していると、ジョルノは最後にジェーンの顔の右手を当てた。するとヴェールの止め具から緑の芽が表れ、瞬く間に薔薇の花が開く。ドレスにとても似合う、白い薔薇のコサージュだ。
「目を開けていいですよ」
ゆっくりと目蓋をあげる動作さえ、優雅だった。
「何をしたの?」
「ちょっとした手品です」
穏やかな空気の中で微笑む二人を見ていると、幸せのおすそ分けをされたように、心が温かくなっていく。
「教えてくれないのね。ね、トリッシュ、ミスタ。ジョルノは何をしたの?」
胸のあたりで両手を組んで、ジェーンは困ったように笑った。
説明するのも面倒―もとい、無粋な気がするから、どう言ったものかと考えていると、ミスタがその役目を奪っていった。
「幸せになる魔法さ」
すっごいキザ!

- end -

20100619

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