3rd Anniversary.



一般的な恋人になるための課題

(ミスタの視点です)

「来週、誕生日なんだ」

クソ真面目な顔をしたブチャラティに呼び出されたのが30分前。
でかい仕事でもやるのかと思って神妙なツラをした俺とアバッキオとフーゴにナランチャにジョルノが揃ったのが10分前。
人数分のエスプレッソが運ばれてきたのが5分前。
それから誰もエスプレッソに口をつけることなく、黙ったままでブチャラティの話を待っている。
で、散々勿体つけたブチャラティの口から吐き出されたのがこの台詞。

「ダレの?」

拍子抜けしそうなくらい平和な声音で聞き返したのはナランチャだ。
つっても、俺を含めてみんな、「言うに事欠いて誕生日の話かよ」って拍子抜けしてるだろうけどな。アバッキオなんて眉間の皺が増えてんじゃあねーのか?
誰も手につけないエスプレッソからは、もう湯気が途絶えている。

「………ジェーンの」

言いにくそうに、それでもブチャラティはよく通る声で言った。
なんとなく予想はついていたけど、そんなことでわざわざ俺達を呼び出すのは勘弁して欲しいかもしれない。
どうやら呆れてしまった皆は、同じタイミングで温くなったエスプレッソのカップに手を伸ばした。

「誰ですって?」

温いコーヒーに顔を顰めた俺達とは異なり、ジョルノは怪訝そうにブチャラティに尋ねた。
無理もない。ジョルノがココに来てからまだ一週間ってトコだからなぁ。
ジェーンってのは、目の前の通りを西に200メートルくらい歩いたトコにある花屋の娘のことだ。
なんだったか、たちの悪い地上げ屋だかなんだかからブチャラティが助けてやって以来、ジェーンはココに週一で花を届けに来る。殺風景なテーブルに鮮やかなアレンジメントが飾られるのはなんだか新しくて気持ちがよくて、遠慮するブチャラティも一月が過ぎる頃には謝辞以外は口にしなくなった。
まー俺達からすればジェーンが花を届けるのなんて、ブチャラティに会いに来る口実にしか見えねーんだけど。
ブチャラティはかっこいいし、やさしいし、頭も切れる。ジェーンは器量良し、気配り抜群。お互い惚れあってるのは見て解るんだよ。ジョルノはまだ見たことないんだったか?
たまたま隣に座ってた俺が噛み砕いて「ブチャラティのコレだよ」って、小指を立てながら教えてやると、

「いや、そういうんじゃないんだ」

なんて、ブチャラティは真顔でしかもちょっと照れて言うもんだからこうなったらジェーンが不憫に思えてくる。いや、いっそ二人とも不憫かもしれない。

「そういうモンなのか違うのかはいいとして、アンタはなんで俺達を集めたんだ?」

アバッキオがドルチェメニューから顔も上げずに聞いた。代わりに、隣からメニューを覗き込んでいたナランチャが顔を上げた。

「あー!ひょっとしてアレだろォ!?みんなでジェーンのパーティを開いてやるってこと!?」
「うん、パーティも考えたんだがな、…ジェーンの予定もあるだろうし、なぁ」

そりゃブチャラティ、アンタがジェーンを独り占めしてーだけじゃねーのか?
エスプレッソの温さが移ったような温い笑みを浮かべる俺達は、ブチャラティの不器用すぎる言い訳がおかしくてしょうがない。

「それで?プレゼントでも贈るつもりなんですか?」

見透かしたような顔でジョルノが口を開いた。

「そうだ。何か気軽に渡せるようなものなら、ジェーンの負担にならないと思うしな」
「負担って…ブチャラティ、アンタね」
「あ、やっぱりプレゼントは…それ自体が負担だと思うか、フーゴ?」
「いや、負担じゃあないと思いますよ、全然…全然ね……アバッキオ、僕はベイクドチーズケーキで」
「俺はイチゴのショートな!ブチャラティにもらえるんだったら、何だって嬉しいと思うぜジェーンはよ」
「よせよミスタ…そんなんじゃ、」
「俺もミスタに賛成!でもさぁ、女って何貰ったら喜ぶモンなの?…俺、ベリーのタルト!」
「そりゃあ、花束とかじゃないんですか?」
「てめー馬鹿、ジョルノ、ジェーンは花屋なんだぜ?」
「…それ僕、聞いてないですよ。……プリンアラモードで」
「まぁとにかくだ、ジェーンに何を贈ればいいのか俺には見当もつかない」
「それで俺達を集めたってのかよ」

食事にでも誘ってやりゃあいいじゃねーかと言おうとしたが、どうせ“今の”ブチャラティのことだ。
「互いの予定が」だの「好みがわからない」だの、グダグダ言い出すに決まってる。
ドルチェはいらねーのか?と聞いたアバッキオに片手を挙げるだけで「いらない」の意思表示をしたブチャラティは不意に何かをひらめいたような顔つきになった。

「ケーキ……いいかもな。食べれば残らないし、うん、これだ!」
「決まったんですか?プレゼント」
「ああ。だが、ジェーンの好みがわからない」
「そんなん本人に直接聞きゃいいだろォ〜?」
「駄目だ、うっかりジェーンに感づかれるかもしれない。プレゼントはサプライズにしなければ」
「はぁ、そう…」
「じゃあどうすんだ?」
「…そうだ!今からジェーンをココに呼んで、一緒にドルチェを食べれば好みがわかるじゃないか」

名案が思いついたとばかりに、ブチャラティは瞳を輝かせて表通りに出て行った。お前等、ジェーンが来るまでそこにいろよ!と言い残して。
さっきまで予定がどうとか言ってたくせに、行動は早いことだ。アレだ。恋は盲目って奴か?

「……アホくせー」
「あんだけ行動力あるなら食事にでも誘ってとっととケリつけりゃあいいのによぉ」
「なぁどーすんだよ、おい」
「邪魔しちゃあ悪いですよね」
「他の店でドルチェ食べませんか?」

賛成。
フーゴの提案は全員一致で受け入れられ、俺達はレストランを後にした。何故か甘いものに詳しいジョルノオススメのカフェに向かうことになったのだが、許せブチャラティ。

これでブチャラティも中学生並の恋愛から脱却できりゃあいいがな、どうにも前途多難な気がする。

- end -

20090701

title from 3lies