3rd Anniversary.



ああ、ぼくの かわいい かわいい おひめさま!

今朝のジェーンは妙に機嫌がいい。機嫌がいいついでに些か浮ついているようにも見える。

「どうしたのだ大尉、今朝は妙に嬉しそうな顔をしているが」
「す、すみません…えへ、実はですねぇ、昨日」

昨日といえば、対ジェノブレイカーの作戦会議に出てこないアーバインにジェーンが憤って飛び出していったのは覚えているが…


『ちょっと!アーバイン!サボってないで貴方も会議に参加しなさいよ!』
『あー?なんだお前さんか。あんま怒ってっとキレーな顔が台無しだぜ』
『きれっ…そそそそんなこと言ったってだまされないわよ!』
『いや本気本気。軍人やってるのがもったいねえくらいだぜ?』



…ということらしい。戻ってこなかったのはそれで、大方アーバインに逃げられでもしたんだろう。

「そのときのアーバインの顔、なんていうか冗談言ってるようには見えなくて。とにかく綺麗とか、可愛いとか、いわれて悪い気はしませんね!」

いや、それは騙されてるんじゃないか。
私は顔だけで苦笑した。しかし、つい先日まで「この基地にあんなならず者が出入りするようになるなんて帝国の名折れです!特になんなんですかあのアーバインとかいうゴリラ男!陛下もどうしてまたあのような人間とお知り合いになっているのか」云々、文句を垂れていたというのに。
確かに、ジェーンの顔立ちは愛らしい。
パッチリとした瞳、小さな顔、つやつやの髪にはもちろん天使の輪。ジェーンが小さい頃には人形かお姫様のようだったのだろう。
無論、今でも十分に可愛らしい。加えて優秀。わが愚弟のトーマと同い年ではあるが、力量には天と地ほどの差がある。アイツにジェーンの爪の垢でも煎じて飲ませたい。
しかし、有能は有能なのだが如何せん見た目のせいで甘く見られがちではある。かつて陛下とメリーアン嬢の護衛をしたときには何故かメリーアン嬢と意気投合し、傍目からは姉妹にしか見えなかった。童顔で小柄で声も高いのだから仕方のないことなのかもしれないが。
それを今まではコンプレックスに感じていたようだったが、アーバインのたかが一言でここまで喜んでいるとなると面白くない。
アーバインだからなのか、自分以外の誰かなのか。私はその答えを出したくないのかもしれない。

「それは、よかったな」
「はい!」
「あ、おはようございます!兄さん、ジェーン大尉」

後ろから小走りでやってきたのはトーマだった。勤務中はそう呼ぶなと何度もいっているにも関わらずこれなのだから頭が痛い。

「…シュバルツ中尉」
「あっ、失礼しました!シュバルツ大佐!」
「まぁまぁ、朝ぐらいいいじゃないですか、ねぇトンマ!」
「ダレがトンマですか!トーマです!…あれ?」

トンマ、もといトーマはしげしげとジェーンを見つめている。

「どうかした?」
「いえ…あ!口紅!?」
「わ!トンマなのによく気づいたね!」
「ト ー マ で す !」

言われて見れば確かに、ジェーンの唇がいつもと違う。普段よりも赤く、瑞々しい色だった。
トーマが気づいて私が気づかないというのは悔しい。
なんだというのだ。アーバインといい、トーマといい、ここの連中はジェーンのことを狙っているのではないか?

「ジェーン、ガイガロスへの定時連絡に間に合わなくなる。急ごう」

私は半ば無理矢理ジェーンの腕を引いた。

「た、大佐?…あ、じゃあまたね!中尉!」

トーマはきょとんとした顔で私たちを見送っている。
まさか私がこんなことを、こんな気持ちでやっているなどとは気づかれたくない。

「どうしたんですか、大佐?」
「どうしたのだろうな」

こんな子供っぽい嫉妬に身を焦がしているなんて。
そのことに今ようやく気づいたなんて。

- end -

20090622

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