ごった煮拍手お礼



江神二郎

昼休み。私と江神さんはリラのパスタランチを食べている。いつもなら江神さんが部長をつとめるEMC―英都大学推理小説研究会―のメンバーと一緒なのに、今日は二人きり。他の4人、つまり、アリスにマリアにモチさんに信長さん、彼らはどうしたんだろう?
「ゼミの集まりとクラス会の打ち合わせがあるそうや」
江神さんはきれいな手でフォークを上品に扱いながら説明してくれた。知ってたのか。
「なんや、しらんかったんか?」
「え?はい。江神さんは知ってたんですか?」
私も、江神さんの優雅さには及ばないけれどフォークを一生懸命使いながら問い返した。けれど江神さんはなにやら考え込むような顔をしている。どうしたんだろう?
フォークを持った手を止めていると、江神さんも我に返ったように軽く微笑んで見せた。ドキドキするなあ。
「俺は聞いてたけど、な」
「どうして私には教えてくれなかったんだろう・・・」
ひどいなあ、と独り言を言ってからスパゲティを口に運んだ。江神さんは何か言いかけて、口の中にスパゲティがあるから少し間をおいて話し出した。こういう、マナーとかきちんとしてて、そういうところも好きなんだよなあ。
「俺は、嬉しいけど」
私が今度はびっくりして、江神さんと同じように口の中のスパゲティを飲み込んで、ついでにお冷を一口飲んでから聞き返した。
「嬉しいんですか?」
「ん?そら、」
そうして江神さんはまた穏やかに微笑んだ。私なんて、こうして二人きりでのランチにめちゃくちゃ緊張してるのに。
「デートやないか」
予想外の言葉で、私は絶句してしまった。ドキドキはとまらない。
ほんと、恨みますよ、諸先輩方に同級生!(ちょっと感謝してるけどね!)

ザビーネ・シャル

遠くに星が煌いている。宇宙空間を、フロンティア4に向けて飛ぶ黒いモビルスーツのある一機。

「いや…これはいくらなんでも無理があると思います」
「だったら撃墜されないで欲しいものだ」

基本的に、というか元来、モビルスーツのコックピットは一人用。空いたスペースなんてものは存在せず、もう一人がコックピットに乗り込むのならば、操縦する人間の膝の上に乗るしかない。
ザビーネ隊長の膝の上に、私は乗っているわけだけど、なんとも心臓に悪い。ヘルメット同士がコンコン当たってしまうから、二人ともヘルメットは外しているけれど、それが逆に恥ずかしい。
身長差の所為で、耳元を呼吸が掠めていくから。

「それにしても…死ぬかと思いました」

気恥ずかしいのと気まずいのとで、私は何か喋ろうと話題を探したけれど、出てくるのはこんなことだけだった。
フロンティア1へ侵入し、連邦軍と交戦。
所詮は平和のぬるま湯に浸かりきったヤツばっかりだとタカを括っていたのが甘かった。
見たこともないモビルスーツにベルガ・ギロスの肩口を打ち抜かれ、ヤバイと思ったときには偶々近くにいたザビーネ隊長の機体に飛び移っていた。

「狙撃されたこと云々より、私はお前が飛び移ってきたことが信じられなかったがな」
「私の機体に当てるなんて、あのパイロットは中々のもので」
「コロニーの重力下で、生身で飛び降りるやつがあるか」

遮るように厳しい口調で言われ、さらに後ろから軽く頭を小突かれる。

「…すいません」
「ヒヤヒヤしたぞ」
「次は…あ、あればの話ですけど、気をつけます」

私を小突いたザビーネ隊長の手は、腰にまわされた。そのまま、ぎゅうっと抱きしめられる。

「た、隊長?」
「死ぬかと思ったのは私のほうだ…」

唇が触れるか触れないか、耳元で囁かれる。

「頼むから、無茶をしないでくれ。ジェーン」

空条承太郎

「あのね、」
「……………」
「今度の日曜日にね」
「……………」
「あ、ほら私、吹奏楽部なの!知ってた?」
「知ってる」
「えっ!?ほんとに!?あ…うん、それでね、」
「なんだ」
「ええと、チケットがあるんだけど……」
「……………」
「やっぱり承太郎は興味ないよね…クラシックだもん」

別に親父がジャズやってるからって俺がジャズしか聴かないわけねえだろ。
俺は花子の手からつるつるの紙切れをひったくった。
日曜午前10時開演か。やれやれだぜ。

佐伯 瑛

「んもー瑛くん、なんでそんなに拗ねてんの?」
ウルサイ。花子のバカ。
「ちょっとー…?なんなのもー…」
ああもう、は、こっちのセリフだ。いいかげんほっといてくれ。
俺は今ものすごーく、傷ついてんだからな!
「いいじゃないの、私のほうがギターうまかったからってそんなに拗ねなくても」
拗ねるよ。無茶言うなよ。俺は、向いてないながらもほぼ毎日練習してたんだぞ。
「ほらぁ、私小さい頃からピアノ弾いてたし」
ピアノとギターじゃ全然違うだろ、ほんとバカ。
「もう指痛いからギターは弾かないし」
…………。
「ねっ、機嫌直して」
………。
もうちょっとかわいくゆったら、ゆるす。

20110710 再掲

えらい昔のから比較的最近のまで見事に混在。