いつになくどす黒いオーラが漂う、ジェーン・バーキン中佐の執務室からこんにちは。ララァ・スンです。
今まではどす黒いオーラを出しているのは中佐のほうですが、今日はちょっと違います。
「(……ど、どうしたのかしら……)」
いつもは横柄な態度で「地元じゃ負け知らず」のジェーン中佐も、この雰囲気にたじたじしています。
珍しく真面目に仕事に取り組んでいるようで、書類に目を通しながらも時折視線を上げては様子を窺っています。
何のって?
ガトー中尉です。
なんということでしょう。いつもは猪突猛進かつ血気盛んなジェーン中佐のブレーキ役の彼が、今日はむっつりと黙り込んでイライラオーラを振りまいています。
ただ、イライラオーラだっていうのは私には解るんですけど、どうもジェーン中佐には伝わっていないらしく……。
「(何かしら……何かあったのかしら……)」
さっきからずっと書類一枚を決済するごとに考え込んでいます。
「(はっ……ま、まさか……)」
私が思うに、いい加減ガトー中尉もジェーン中佐の破天荒な振る舞いに痺れを切らしたんじゃないかと思ってるんですが……。
「(む、ムラムラ!?)」
……。
そこで絶対に自分は悪くないんだと思えるジェーン中佐が羨ましいです。
「(きっとそうだわ……仕事は忙しいし、休日も買い物とか色々つき合わせてるし)」
そんなことしてたんですね。
「(毎日こんな美女と顔をあわせておきながら触れることすら叶わないのならそうなっても仕方ないわ……)」
そうなってないと思います。
「(でもダメ!きちんと段階を踏んでからじゃないと!)」
思考の根本が間違っているので修正のしようがありません。
と、こんなくだらない推測をしていると、突然ガトー中尉が立ち上がり、つかつかとジェーン中佐の机に向かってきました。
当然、間違った推測に頭を悩ませていた中佐は勘違いして身を強張らせています。
「中佐!」
「はっ、はいなんでしょう!!」
口調すら違いますね。
「頼みがあります……」
「え゛っ……」
椅子の真横に回りこんで、ガトー中尉はジェーン中佐の肩をがっつりとつかみます。
「(うわこれ絶対ヤラせろって言われる!!絶対!)」
ヤラせろとか言うな。
「だ、ダメだ……私たちはそんな関係ではない……」
「わかっています……けれど、」
「む、無理なものは無理だ!」
「しかし!私ももう我慢の限界なのです!」
「が、ガトー……」
あっ、なんか……背後に薔薇が見え……
「アナベル・ガトー、一生の頼みであります!どうか、どうか自分を、」
ごくり
「このMS演習に参加させてください!!」
演習?
机にたたきつけられたのは、一週間後のMS演習の告知でした。
「……は?」
「配属後、一回もMSに乗っておりません、これでは勘を失ってしまいます!それになにより、自分はMSパイロットとして教育を受けてきた身です!こんなに長い間乗っていないと、どうにもストレス……ガッ!?」
決まりました。
ジェーン中佐のアッパーが。
仰け反るガトー中尉。
飛び散るジェーン中佐の涙。
そして、
「この……ケダモノーッ!!!!」
その叫びは、長く尾を引きながら、ズム・シティに響いたのでした。
なんか、違うと思うんですけどね。
ちなみに、ジェーン中佐は「あんなイライラされては困る」と言い、演習への参加を決めたようです。
愛ですね(棒読み)。
20081125