ソロモン海域でつかまえて!



Vol.9 宇宙最強の嫁 前編

「待ちに待ったときが来たのだ……多くの英霊が無駄死にでなかったことの、証のために……!」



 みなさんお待ちかねー!
 ついに最後の幕が切って落とされました!
 舞台はソロモン、連邦軍の観艦式が行われている空域に突如現れたガンダム試作2号機。乗っているのはソロモンの悪夢、アナベル・ガトー少佐。核弾頭を積んだこの機体が、今まさに艦隊にむけて砲撃をしようとしています。
 地球、オーストラリアの連邦軍トリントン基地から強奪して以来、数々の追っ手を振り切ってようやくここまでたどり着いた星の屑作戦。ガトー少佐は万感の思いで引き金に手をかけます。
「再びジオンの理想を掲げるために……!星の屑、成就のために……!そろm」
『ちょーーっとまったぁーーーーーー!』

 がごん。

 勢いがついていたガトー少佐はコンソールに額を強かにぶつけてしまいました。
「誰だ!今、一番の見せ場だったのに!!名言ベスト5に入る名台詞を言おうとしてたのに!!」
 俺かっこいい!とか思ってたんでしょうね。
 そんなガトーの言葉も気にしないような不敵な笑い声が、ソロモンの海に木霊します。

『ふふふふふ……ひとーつ!人世の生き血をすすり……』
『ふたーつ!不埒な悪行三昧……』
『……』
『……ちょっと!中佐の番ですよ!』
『えっ?違うだろお前、私はキメの台詞だと言っただろうが』
『そんなん打ち合わせで言ってないでしょ!』
『やかましい!』
 ちっともかっこよくない侵入者らの姿はまだ見えません。

「ま、間に合った……!けど、さっきから通信に割り込んできてるこれ……なんだ?」
 急速接近していたガンダム試作一号機のパイロット、コウ・ウラキ中尉も、
「これ、ひょっとして核弾頭撃たれそうになってた?」
「みたいですね」
 観艦式の最中のグリーン・ワイアットも、
「核弾頭の使用を引き止めてくれたのはありがたいのだが……何者だ!?」
「ちょ、シモンはドム相手って言っただろ!」
「なによスコット〜、そんなとこで戦ってるのがいけないんじゃない!」
 一人真面目な艦長をよそに『戦場の絆』に没頭するアルビオンクルーを除けば、その場にいた皆が突然の乱入に戸惑いを隠せません。

『我々は●%☆*♪・ビーイング。紛争に介入しまくる』
『なんで伏せてるんです』
『デラーズ・フリートの諸君、核は使っちゃあ、いけない……』
『そう、南極条約違反だ』
『ダメ!絶対!』
『ところで旧世紀のある国が、こんな提言をしていたそうだ……』
『非核三原則……それは……』
 声だけの存在に不気味さを感じながらも、ガトー少佐は周囲の索敵を怠りません。
『核兵器を……』
「上か!」
 しかし気づいたときにはすでに遅く、

『持たないことに決めましたァァァァァ!!』
「「「三原則じゃねえェェェェ!」」」

 上から伸びてきたビーム・サーベルによってすっぱりと切り落とされてしまった二号機の右腕、核弾頭を装填したままのバズーカは、宇宙の彼方に消えていきます。
 ツッコミありがとう、諸君。そんな台詞を吐きながらゆっくりと姿を見せたのは……。
『素晴らしいだろう、まるで私の美しさが形になったような……』
 ラフレシアです!モビルアーマー、ラフレシアです!
 何本もの触手に数々の武装を携えて堂々の登場です。
「なにアレ……」
「気持ち悪ッ!」
「悪趣味……」
「宇宙の物の怪だ」

 大変不評です。案の定。

『……』
『だから機体を金色に塗ればよかったんですよ』
 そういう問題じゃないと思う。
『貴様等!この機体を甘く見ているな!?シャアが説明してやろう……』
『私ですか』
『まずは“ツイン・バスター・ライフル”』
 それは武装の自慢で、機体自体は大したことないんじゃ……。
『超強力なビーム兵器です。一撃でコロニーを破壊できます。ちなみにラフレシアには12丁積んであります』
「「「「凶悪!!!!」」」」
『そして、“サテライト・キャノン”』
『月からのマイクロウェーブを受信することによって壊滅的なダメージを与えることの出来る兵器です。ちなみに改良を重ね、月が出ていなくても撃てるようになりました
「「「「サテライト関係ねぇぇぇぇぇ!!!」」」」
『次、“モビル・ドール・システム”と“バイオ・コンピューター”』
『あんまり脅威を与えられないので省きます』
「「「「おい」」」」
『“月光蝶”』
『現在では地球のポリネシア地方でしか見られない、大変貴重な種類の蝶です。羽の模様が月の光でかがy』
「「「「それはウソだろう」」」」
『最後、“ドラグーン・システム”』
『いわゆるファンネルです。ニュータイプもしくは強化人間でなければ操作できませんが、中佐は執念だけでこれを操作するおつもりのようです。ラフレシアはビットではなく、この有線式サイコミュの触手ですがね』
「( ま さ か )」

 ラフレシアの触手がうねうねと蠢き、各種の武装がまさに顔面蒼白・意気消沈・青色吐息なガトー少佐の駆る二号機を取り囲みます。ある意味、オールレンジ攻撃。
『ここに私が現れたのはデラーズ・フリートの作戦を阻止するためではない。まぁ、それもあるがそれはあくまでついでだ』
「あの……ジェーン中佐……ですか……?」
『貴様……ガトー、不貞を働きながらよくもまあぬけぬけと姿を現したものだな』
「いや、ここに来たのは中佐の方が後……」
 ガシュン、と音を立て、ラフレシアの中央部のコックピットハッチが開きます。
 そのまま中佐は背部ランドセルのバーニアをふかして二号機のコックピット付近に接近していきます。
『開けろ』
「……はい」
 真っ青なガトーがハッチを出て目にしたのはサブマシンガン一丁を構え、腰には手榴弾とコルト・ガバメント2丁、肩からは対戦車バズーカをひっさげたジェーン少佐でした。もちろんマシンガンの弾が『ランボー』のように肩にじゃらりと掛けられています。
「あああああ!!!ちょ!ま!」
「問答無用!この……」
 じゃこん、とサブマシンガンを構えなおし、照準をガトーにセットしなおしたジェーン中佐。
 両手を挙げて弁明しようとするガトー少佐。
 それを見守る面々。

「浮気者ーーー!!!!」

 ガガガガガガガガとマシンガンが火を噴くのかと思えば、ジェーン中佐は砲身を思いっきり振り上げて、
 ゴン!
「いだっ!」
 ガトー少佐の頭に思いっきり振り下ろしました。
 一方、アルビオンクルーや連邦軍の面々はというと……
「痛そう……」
「ていうかなにアレ?どういうことなの?」
 ぎゃいぎゃいと痴話げんかをおっぱじめる二人をどこか呆れた目で見つめています。当然だ。
 しかしそこは連邦軍も黙っていません。グリーン・ワイアットは各艦に通達しています。
「なんかようわからんが、この隙にあのガンダムもろとも撃破せよ!」
『そうはさせん!』
「なっ!?」
 突如ブリッジの前に現れたのはモビルスーツ、ザクです。バズーカの照準はもちろんブリッジに向けられています。
「い、いつのまに……!」
『そこは聞かないで頂きたい。あなた方の艦全てが同じような状況に陥っていることは、お分かりかな?』
 シャアの声に促されるように周りを見回せば、確かに無数のザクがサラミスやらマゼランやらにぴったりと取り付いています。
『全てのザクは私の意志で動いている。先ほどは述べなかったが、これがモビル・ドール・システムの脅威だ。無論コチラとて手出しをする意志はない。ただ、貴官らが彼らに手出しをしなければいいのだ』
「何……?貴様、何故こんなことをする……?」
『あの人に弱みを握られているからです……』
「弱みとは?」
『それを言ったら元も子もないでしょうが!!それに、失敗したらアクシズのハマーンの元へ送り返すなんて言い出すんですよ!?こっちだって命がけなんです!!!』
「あ、そう……」

 シャアの弱みがなんなのかはさておき、再びジェーン中佐の元へ視点を戻してみましょう。
「ちょ!誤解です!何もしてません!」
「そんなことが信じられるか!!」
 相変らずタコ殴りの刑に処されているガトー少佐、相変らずマシンガンの使い方を間違っているジェーン中佐。
「だったら本人に聞いてくださいよ!」
「言われんでもそうするわ!!……あれ?え!?私が聞くの!?」
『ていうか、こっちはさっきから聞いてますけど』
 回線にニナ・パープルトンの声が割り込みます。
「ニナ!君からも言ってくれ!」
「貴様か!この、泥棒猫!!」
『何ですって!?もう一回言ってみなさいよこの×××!!』
「貴様今なんと言った!?貴様なんぞ、▲▲▲で■■■だ!」
「ちょ……中佐……?」
 小学生並の口げんかが始まりました。ジェーン中佐は二号機のコックピットから通信機器を引っ張り出し、ニナは格納庫の端末からお互いを罵り合っていますが、ついには格納されていたコアファイターに乗り込み、
『緊急発進よ!』
『え!?……あ!ウ、ウラキ中尉!ニナ・パープルトンがコアファイターでそちらへ向かっています!』
『なんだってシモン!?ちょ……ニナ!落ち着いて!』
『邪魔をするなぁぁぁぁ!!!』
「それ、俺の台詞……」
「そっちがその気なら、よろしい!ならば戦争だ!」
「中佐も落ち着いてください!」
『(うわっコアファイターが来た……)ニナ!待ってくれ!』
「(あのモビルアーマーで戦おうというのか!?)中佐!」
 興奮しているのは渦中の4人だけで、ほかの人間は「なんかすっごいくだらないし、もうどうでもいいや」と思っています。それも当然といえば当然ですね。

 ニナはというとコアファイターを最大速度でぶっ飛ばしていましたが、途中で試作一号機につかまり、
「コウ!離して!」
「たかがコアファイター一つ、ガンダムで押し返してやる!」
「ふざけんな!」
「ゼフィランサスは伊達じゃない!」
「これは戦争よ!私を止めないで!」
「こうなったら……!」

 そしてジェーン中佐はラフレシアに向かおうとしますが、コックピットにもぐりこもうとしたところを後ろからガトー少佐に羽交い絞めにされて、
「ケダモノーーーーッ!」
「いつかもそんなこと言ってましたね……でも今は離しませんよ!」
「それは口説いているのか!?」
「半分くらいは!!じゃなくて!おとなしくしてください!」
「ガトー!女同士の間に入るな!」
「中佐……仕方ありません」

「きゃああああああ!?」
「う……!?」

 ニナは乗っていたコアファイターのブースターをぼっきりと折られた拍子に気を失い、ジェーン中佐は首筋に手刀を叩き込まれ、ようやく回線が静かになったのでした。

「はぁ……」
『何とかなった、けど……』
「「ウチの嫁がお騒がせしました」」

 それぞれ神妙な面持ちで深々と頭をたれると、コウはアルビオンに、ガトーは二号機に乗り込んでいずこかへと飛び立ったのでした。

「……観艦式の続き、やってもいいかな?シャア・アズナブル」
「……今の私はクワトロ・バジーナだ」
「でっていう」

 シャア一人を、取り残して。

20090602