ソロモン海域でつかまえて!



「サイド3のヘキサゴン! 〜緑の中を走り抜けてく真っ赤な通常の3倍のゲルググ〜」

 改めまして、ララァ・スンです。
 ところでアナベル・ガトー大尉が「ソロモンの悪夢」なのに対して、私は「ソロモンの亡霊」です。
 なぜだかわかります?
 ガトー大尉は、まだソロモンが陥落していないとき、または陥落直前の活躍でその二つ名を得たのに対し、私はソロモン陥落後にエルメスで連邦軍をぶった切っていったから、なんです。ソロモンで命を落とした兵達が、連邦を攻撃したとでも思ったんでしょうね。
 豆知識でしょ?
 ま、どっちにろ悪夢も亡霊も嫌な二つ名だとは思うんですけどね!



 さて、本編のvol.6ではこのシリーズにあるまじきシリアス展開で、書いてる人がものすごく恥ずかしいわーなんて思ってたそうですが、今回の番外編はまるで何事もなかったかのように、いつものノリで行きたいと思います。

 場面はソロモン。ドズル・ザビ中将に『任務』を命じられてやってきたジェーンバーキン中佐ではありましたが、肝心の任務内容を未だに聞かされていません。

「なーにをさせられるんだろうなぁ、全く」
「そんなこと私に聞かれても知りませんよ」

 ドズル中将の副官、ラコック大佐から待機を言い渡された部屋でコーヒーをすすりながら、ジェーン中佐とガトー大尉はとりとめもないことを話していました。

「ミネバ様の子守とか?」
「まさか、女官が何人控えていると思ってるんです?」
「そうだよなぁ。そのことに気づいたからこそ、今回の話が子守ネタじゃなくなったんだからなぁ」
「……気づいたとか今回とか、何の話です?」
「いや、なんでもない」
「?」

 と、舞台裏のことを話していた二人は、突然開いたドアから入ってくるドズル中将の姿をみとめると起立し、敬礼をとりました。
 腐っても、軍人。

「すまんな、待たせてしまった」
「いえ」
「まぁ、座ってくれ」

 ドズル中将が腰を下ろすのと同時にミシリと音をあげて軋む椅子に、心の中だけで「かわいそう」と呟きながら、二人もそれに倣います。

「して、今回中佐に頼みたいことなのだがな」
「はっ」
「軍の方でプロパガンダを作成することになったのだ」

 プロパガンダ。戦争中ですからそういうものも作られて当然ですよね。

「……はぁ。では、私がその作成を統括するのですか?」
「……あ、いや、そうではなくてだな」

 疑問を口にしたジェーン中佐の顔から視線を逸らしながら、ドズル中将はとても言いにくそうに咳払いをするのでした。

「これは、兄貴―いや、ギレン総帥直々の命令だ。ジェーン中佐がプロパガンダの主演をやれと」
「はぁ!?主演って……一体!?」
「うーむ……なんでも、映画を作れとかなんとか言っていたな。あ、いや、映画と言っても短いものだ。中佐も通常の任務があるからな」
「いや、その、というよりもですよ、なんで私なんです?」

 お断りだと言わんばかりに嫌そうな顔をしてジェーン中佐は自分の首元を指差します。

「(兄貴曰く、)我が軍一の美女である中佐ならばと」
「謹んでお請けいたします」

 さきほどまでの渋面はどこへやら、中佐は引き締まった顔をしたと思うと頭を下げてみせるのでした。下げた途端に、頬がだらしなく緩んでいます。

「おお、そうか!これで兄貴にもよい報告ができる!感謝するぞ、中佐」
「とんでもありません!」
「あ、あの……」

 先ほどから話の成り行きを見守っていたガトー大尉がおずおずと口に出したのは、

「私は、なぜここに呼ばれたのでしょうか?」

 まさか自分まで出演なんてことは勘弁して欲しいと、さきほどのジェーン中佐に負けないくらいの渋面で口にするのですが、

「大尉、貴殿はオブザーバーとして参加だ。映画の内容も全く決まっておらんからな。脚本やら演出やら、すべて我々だけで考えなければならない。が、三人寄ればという昔の言葉もあるしな、なんとかなるだろう」
「はぁ……」

 要するに賑やかしみたいなものかと納得しつつも、また妙なことに巻き込まれてしまったと、大尉は溜め息をそっと吐き出しました。

「よし、早速だがまずは映画の内容を決めねばならん。目的は、“本国市民ならびに兵の士気高揚”と“志願兵を集めること”だ」
「私はそういうのはあまり詳しくありませんからねぇ……ガトー、何かないのか」
「え?私ですか?……そうですね……」

 うーんと腕組みをして考え込むガトー大尉を見つめる顔面岩石とワガママ中佐。
 あ、と声を出してガトー大尉は人差し指を立てて見せます。

「旧世紀のフィルムで、そういうのを観たことがあります」
「ほう」
「それはどんなものだ?」
「ブロンドの美人女優が、色っぽく“ハッピーバースデー”を歌っていました!前線の兵がとても喜んでいましたよ!」

 これは効果的に違いないと笑みを浮かべる大尉に注がれるのは、期待はずれもいいとこだといわんばかりの4つの瞳。

「そんなもの、誕生日であるヤツ以外にはなんの効果もないではないか。そもそもそんな都合よく誕生日を迎えるヤツがいるものか!仮に一年365日の誕生日が365人の兵達のなかで揃っていたとしてもだな、効果があるのは1/365だぞ?効率が悪すぎる。大体旧世紀とは違って今は女性仕官も数多く存在するのだ、女に色っぽく祝われたって、少なくとも私はうれしくないぞ」
「あの、すいませんでした。だからもうそういうのやめてください(半泣き)」
「なにかストーリー性のあるものにせねばならんな」
「そうですねぇ。ということだガトー、何かないのか」

 また自分ですかとげんなりしながら、それでも一番立場が弱いからには何かしら言っておかないとと頭を抱えるガトー大尉は迷走を続けるのでした。

「朝、ラッパを吹いていた新兵の前に、空から美少女が降って来て……」
「ラピュタかよ!」
「七つ集めるとどんな願いでも叶う球が空から降って来て……」
「ドラゴンボールかよ!しかもなんでまた降って来るんだよ!」
「……」
「……なんだその目は」
「中佐は何かお考えでもあるのですか?」

 至極真っ当な意見に、当のジェーン中佐は目を泳がせながらも、

「我が軍のMSの中で一番好きなMSを一つ選び、そのMSがもっと活躍できるような戦略を考えてください」
「どこの入社試験!?しかも他人任せの戦略!?」
「ビグザムです。局地戦に適しているのですが、とりあえず戦いは数だと思います」
「閣下も乗らないでください!!!」
「ジオン軍入隊キャンペーン実施中!今なら先着10名に“一日ザビ家”プレゼント!」
「なんですか一日ザビ家って!?」
「俺はもうザビ家だしなぁ……あんまり魅力的では……」
「閣下!!」
「朝、ラッパを吹いていた新兵の前に、空から美MSが降ってきて……」
「きません!何ですか美MSって!!」
「ビグザムに決まってるだろう」
「「ぜってー違う」」

 やはり、ダメでした。
 アイディアとすら呼べない思いつきには、ドズル中将も呆れています。
 困ったことになりました。

「もうさ、漫才やったら?」

 一応、息は合っているようだからと付け加えた声の主はドズルでした。
 まぁ、確かに二人の息はぴったりですが、これでは士気高揚はおろか、笑いすら取れるか覚束ないでしょう。

「こんなヤツと漫才やるぐらいならフランチェスカコロニーで水着グラビアでもやらせていただきたいものです」
「(むか)……自分だって、熱湯風呂に入ったり交通整理でもやってるほうがマシです」
「趣旨が違うぞ趣旨が」

「お困りのようですね!」

 突如部屋のドアを開け、何の脈絡もなく登場したのはシャア・アズナブルでした。
 実は彼、先日のルウムでの活躍により超・昇進!今はシャア・アズナブル少佐です。

「うわっ目に痛い赤の3倍ウザイアイツが来た」

 ジェーン中佐は心の底から面倒くさそうな息を吐き出すのでした。

「中佐も今の内にそういうことはぜーんぶ仰っていた方がいいでしょう」
「……どういう意味だシャア」
「フフ……今に私は貴女の階級なんぞ、抜いて見せますからね」
「うわぁーうぜぇぇぇぇぇぇ!」

 椅子の背もたれに仰け反りながらげんなりとした台詞をもらすジェーン中佐を尻目に、シャアはどこから持ってきたのか、そしていつの間に書いたのか、原稿用紙をテーブルに置きます。

「これは?」

 驚くというよりも怪訝なドズルとガトーに、シャアは腰に手を充てつつ、

「私が考えてきたプロパガンダのシナリオです」
「いつの間に!」
「というか、なんでお前が知っているんだ?」
「細かいことはともかく、どうぞご覧下さい、中将閣下」

 うーむと半信半疑のうなり声を洩らしながら、ドズルは400字詰め原稿用紙の束を捲り始めます。

「まずは……《熱血!辞怨(じおん)高校野球部物語》……?」
「何故野球……?」
「アホか貴様は」
「士気高揚するでしょう!」
「……次……《生命倫理に迫る―赤い巨塔》」
「聞いたことありますね、赤じゃないですけど」
「パクリじゃん。生命倫理って、戦争関係ないじゃん」
「オマージュと言って頂きたい!」
「……まともなのはないのか、シャアよ?……ん?これが最後か……《名探偵VSパイロット!ザクノート》」
「あー……それも聞いたことありますね……」
「お前、これ全部本気で考えてきたのか……?」
「そ、そんなこと言わなくても……い、一生懸命考えたのに……」

 これが一生懸命考えた結果だとしたら、シャアの階級は大幅に下げた方がいいかも知れない
 そんなことを3人は考えながら、深いため息を部屋の中に充満させるのでした。
 めそめそしているシャアをお構いなしに、ああでもないこうでもないと議論を展開させた結果……

「もうこれしかないですね」
「そうだな」
「確かに、致し方ありません」

「「「フランチェスカコロニーへ行こう」」」


 ……わからない人たちのために、ララァ・スンが解説します。
 【フランチェスカ・コロニー】
 宇宙世紀0048、地球連邦政府の“第二次観光コロニー開発計画”において計画立案された観光用コロニー。
 当時コロニー公社で進行していた海洋コロニー建造計画と合同し、0052年にサイド6に完成。
 特徴はコロニーの“河”(太陽光を取り入れるためのパネル部分)に作られた大洋であり、珊瑚礁までもが作成され訪れる旅行客を楽しませている。
 上記情報は宇宙世紀0099にアナハイム・エレクトロニクスが刊行した『アナハイム・ジャーナル』によるものである。年代は気にしてはいけない。
 なお、同じものはエンターブレインより刊行されているので、興味のある人は一読されたし。カイ・シデンファンならなおのことである。


「いやーフランチェスカに行けるなんて夢みたいだと思わんか、ガトー?」
「そうですね、自分達軍人の身では長期休暇は中々取れませんからね」
「骨休めは必要だからな、ふむ。しかし休暇を充実させることで兵達の練度も上がるやもしれん。考えておくべきだな」
「閣下、私たちはそういう意味で言ったわけでは……」
「いや、俺のほうこそこういう意見を出してもらった方が助かるのだ、中佐」
「然様ですか……」

 わいわいがやがやと部屋を後にした3人、対して、取り残された赤い彗星のシャア。

「えっ何!?みんな行っちゃったの!?」

 ウソー!?と嘆きながら気づいたときにはもう遅く、閑散とした部屋の中にはどこからか風がふきぬけるだけ。

「まだだ!まだ終わらんよ!」





 一方、フランチェスカに到着した3バカは……

「青い海!」
「白い砂浜!」
「そして水着のワ・タ・シ!」

 おもいっきりバカンスを楽しんでいるようです。
 各人水着だのアロハシャツだのを着込んでリラックスモード全開、プロパガンダのプの字も頭の中にないのでしょう。
 一体どうやっているのかわかりませんが、コロニー内の波打ち際には文字通り波も寄せてはひいていきます。不思議だ。

「まずは軽くひと泳ぎして、そのあとビーチバレーで、それから昼食はバーベキューだ」
「「はいっ!」」
「よし、準備運動はきちんと行うように。それから、モーターボートの区画は危険なので入らないこと。クラゲ防止ネットを越えるのも言語道断だ」
「「クラゲ出るんだ……」」
「それでは各自解散!……ん?」

 まるで引率の保護者よろしくつらつらと注意事項を述べていたドズルがふと妙なものを発見しました。
 なんでしょう、何か、光が見えました。

「どうされました?」
「ガトー、見てみろ。あそこ……」

 ドズルの指差す方向には、確かに何かが光りながら接近してきます。海面すれすれを、波しぶきを上げながら接近してくるのは、

『置いていくなんてヒドイじゃないですか!!』

 真っ赤なゲルググに乗ったシャアでした。

『ワタシだってバカンス、行きたいです!ほら、ちゃんとスイカも浮き輪もシュノーケルも持ってきたのに!』
「「「観光用コロニーにMSで来るやつがあるかーーー!!!」」」





「ギレン閣下、ドズル中将より、例の件で書類が届いております」
「そうか、どれどれ」

 所変わってサイド3の公館、ギレンとセシリアの登場です。
 緑色の封筒に入っていた紙を取り出すと、其処には一言、

『やっぱ無理だよ、兄貴』

 それから、フランチェスカコロニーからの請求書が入っていたのでした。
 私には関係ないし、どうでもいいんですけど、何が起こったのかは大体想像がつきますね。
 ちょっと早いバカンスを、ララァ・スンがお送りしました。

20090507