3rd Anniversary.



こんなにも楽しい日々を手放すことなんて出来ない

「はあ…」
私がため息をついている理由そのいち。 それは今日もまた目立った戦果を上げられることなく、それだけならまだしも、無残に撃墜されて帰還してきたこと。
最近じゃなんとも腹の立つことに、ケーンとかジュドーとかチボデーさんとか、その辺の連中は私が何分持つかで賭けをしているらしい。さやかちゃん情報。
これでも結構努力してるのにな。
カミーユとアムロ大尉にはいろいろ操縦とか教えてもらってるし、メンテナンスだって一通りは自分でできる。 のに、

「ジェーン、君は無期限出撃停止」
「ええ〜!?」
帰艦後に、私はブライト艦長とルリル…もといホシノ少佐に呼び出されてしまった。 そして突然言い渡された無期限の出撃禁止令。愕然。
どこかではしょうがないとは思いつつも、それでも釈然としないし悔しい。
顔にそんな気持ちがにじみ出ていたのか、
「当たり前だ馬鹿者!毎回毎回ものの数分で撃墜されて…」
「好きで撃墜されてるわけじゃありません!」
「そんな人間は居はしないだろうからな!」
「ブライト艦長、」

お説教タイムに割り込んだのは、美少女艦長だった。
ホシノ・ルリ少佐は大きな瞳で私たち二人を見つめている。
「何か?ホシノ少佐」
「ジェーンさんもがんばってます。今回限りだなんてかわいそうですし、次からはエヴァの近くに配置して、ジェーンさんには後方支援してもらえばいいんじゃないですか?」
「エヴァに?」

私もブライト艦長も、その提案に驚きを隠せなかった。

「はい。ATフィールドがついていれば大概の攻撃からは身を守れますし。彼らには私が言っておきます」
「ジェーン」
「は、はいっ!」
「これが最後のチャンスだ。次は本当に出撃停止だからな」
「………はい」
「がんばって、ジェーンさん」


そんなこんなでメンテナンスに赴いた格納庫では一足先にその知らせが来ていたようで、シンジ君とレイはともかくアスカには盛大に笑われた。

「まっ、しょーがないわよね!ジェーンは黙って私の後ろに居ればいいのよ!敵なんてぜーーーーんぶ、この私が片付けちゃうんだから!」
「…………」
「あの、アスカはともかく僕たちもできるだけサポートしますから…」
「三人とも…ごめんね…」

そうなのだ。私はとてもなさけない。
何が悲しくて年下の彼らに守られるようなことになってしまったのか。 へこんでる私を誰も気遣ってくれることなく、いつもより遅い時間にメンテを終えた体を引きずって休憩室にたどり着いた。 いつもならプルやプルツーと一緒にお風呂に入って、それから女の子たちみんなで集まって夜中まで騒いで、結局最後はミサトさんに「こぉら!アンタたち!さっさと寝なさい!!」ってしかられるのがお決まりだったのに。
今は誰とも会いたくない。
ところどころ破けたソファーをベッド代わりにしてこのまま寝てしまおうと思ったとき、

「そんなところで寝ると風邪をひくよ」
「ひゃっ!」

横たえた体をあわてて起こすと、ソファーの向こう側から誰かが私に声をかけてきた。

「ろ、ロムさん?」

ヘルメットがなくて、一瞬誰なのかわからなかった。よくよく見ればやさしい目と口元がロム・ストールその人だったわけで、

「どうしたんだい?こんなところで。いつもならレイナたちと一緒にいるだろ?」
「あ…えと…」

正直に言うと、私はこの優しい人に憧れている。だから心配してもらえるのはすごくうれしいのだけど、こんな情けない悩みを打ち明けるなんて気には到底なれない。そう、私を悩ませていることそのいちと、そのにが一緒に来てしまったのだ。
今までは憧れているだけって思っていたのに、どうやら最近私はこの人に恋してしまったらしい。 声をかけられたら飛び上がるくらいにうれしくなるし、他の女の子と話してるのを見てるとちょっといやーな気持ちになっちゃう。 こういうのが、恋じゃないならなんなんだって話で、今だって心臓は破裂しそうにばくばくしている。近いな、距離が。今までこんなに近くで話したことなんてあったっけ。
自分の指の関節を確かめるような、まるで意味のない行為をしつつうつむいたり視線をさまよわせる私に、ロムさんは少し口ごもりながら話しかけた。
「何か悩みがあるなら……まぁ、俺は男だから、話しにくいことなら無理にとは言わないけど、聞くよ?」
「えっ!?」

いや、こうなることはわかっていた気がする。だって、この人はとても優しい人だから。 それにそうなることを期待していた自分も否定できないけど、どうしよう。
話してしまおうか。
それとも空元気をみせてみようか。
そんなことしても、この人にはすぐにばれてしまうかな。

あなたは困ったように笑うけど、私は今本当に困ってる。

でもそんな状況も少し楽しい、片思いの星降る夜。

- end -

20090904

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