04

「で、どうしてこうなる」

ガトーの部屋には、仕立て屋と侍従たちが入り込んでいる。
大きな間仕切りまで持ち込んで何をしているのかと思えば、その向こう側ではジェーンがドレスに袖を通しているのだった。
「お嬢様!いくら幼馴染とはいえども、アナベル様もすでにご立派な殿方なのですよ!」
ジェーンの婆やが、男の前でこんな真似をするのはやめろと言い聞かせているが、全く聞く耳を持たない。
それどころか、「ついたてがあるんだからいいでしょう?」とのたまう始末。衣擦れに混じって、この赤はちょっと派手だとか、緑は好きじゃないとか、完全に衣装のことしか考えていない台詞が聞こえる。
確かに、「夜会には衣装をそろえて参加したい」と言い出したジェーンに、「いいだろう。ただし、私の目の届く範囲でやれ」とは言った。言ったが、なぜそれを言葉通りに受け取って自分の部屋でやろうとするのかがわからない。
あの上目遣いでわがままを言われると、どうにも断れないのだ。昔から。惚れたせいだと自分を呪ってみてももう遅い。

「アナベル様、仕立て屋のジョバンニが参りました」

執事の声にゆっくりと首を回すと、ジェーンのお気に入りの仕立て屋の旦那が腰を曲げていた。ちなみに、ジェーンの服を持ってきているのは彼の妻である。夫婦そろって腕のいい仕立て屋を営んでいるのだ。

「通してやれ」

くい、と手を曲げて、入室するようにドアに向かって仕草をおくる。
仕立て屋はニコニコしながら恭しくお辞儀をした。

「この度はバーキン様のお嬢様とおそろいで…」
「ジョバンニ!?来てるんならさっそくそこの朴念仁に服を着せて頂戴!」

旦那の挨拶はお転婆令嬢の声にかき消された。誰が朴念仁だと心の中で毒づきながら、ガトーは椅子から立ち上がった。

「お前が決めた後でいいだろう。揃えるとか、そういうことをするのなら」
「アナベルがそういうんならそれでもいいけど、私たぶん、このピンクのドレスにするわよ?」

ぐっと息を呑んでしまう。まさか自分もピンクの礼服にはなるまいと、ジョバンニに視線を送ると、年老いた仕立て屋は機嫌をとるように手をもんだ。

「お嬢様がピンクのドレスでしたら…アナベル様は、そうですな、シャンパンカラーにアクセントとして、おそろいの色を入れられてはいかがでしょう?」
「そうね!このピンクのドレス、リボンとレースは赤にするわ」

目の前の仕立て屋をこれ以上いじめる気にもなれず、ガトーは一応、自分が着ることになるだろう衣装を思い描いてから、いいだろうと言うようにうなずいた。

20091210

title from たしかに恋だった (⇒「堅苦しい彼のセリフ」をお借りしました。)