虹のワルツ

21.誰かの呟きが聞こえた気がした(ミヨ)


中等部の頃の夏碕は、クラスの中でも控えめで目立たなくて、新体操部の女の子っていう、それ以上もそれ以下もないレッテルどおりの女の子だった。たまにカレンとか、私と一緒にお昼を食べることもあった。でも、夏碕は大体いつも一人でいて、窓際の席の陽だまりの中でゆっくりと本を読んでいた。
友達は多くはなかったかもしれない。でも、仲間はずれにされたりしていたわけでもない。
夏碕はいつもみんなより二歩ぐらい後ろで、楽しそうに騒いでいるクラスメイトをニコニコしながら見つめていた。

高校生になってからは、少し違う。
クラブがない休日は、外に遊びに出掛けるようになった。少しずつだけど、お洒落に気を遣うようになった。男の子とも自然に話すようになった。
それに、クリスマスとかバレンタインとか、そういう行事を楽しむようになったのも、高校生になってからだと思う。
きっと全部、バンビのおかげ。
バンビは大勢の人の真ん中でキラキラ、輝いている星。そして、大勢の星同士を結びつける星。
夏碕だけじゃない。きっと、バンビの周りの人はみんなそう。


二年生に進級、同時にクラス替えもあった。今度はバンビと夏碕と桜井琉夏、琥一が同じクラス。私とカレンも、同じクラス。
「今度こそ四人一緒になれると思ったのにー!」
悔しがっているのはカレン。朝の昇降口でばったり出会った四人の、つかの間のおしゃべり時間。
「残念だけどしょうがないよ」
「またゴールデンウィークにさ、みんなで遊ぼう?」
夏碕の提案に、皆が賛成する。やっぱり変わった。前は、誘われることはあっても自分から誘うことなんてなかったのに。
「じゃあさ、また来週あたりウチでお泊り会やって、計画立てようよ」
カレンの提案に、みんなが約束をしてそれぞれのクラスに向かうべく別れようとしたとき、夏碕が「あ」と声を上げた。続いてバンビも、「あーっ!」と大きな声を上げる。自然、みんなが注目するわけだけど、その中の一人が負けないくらいの大声で「あっ!?」と驚いていた。
茶色に、黄色みたいな金色みたいなメッシュの入った髪の男子が夏碕とバンビを見て驚いていた。
「あのときの姉妹!」
姉妹?私とカレンがきょとんとしていると、バンビが「姉妹じゃないし!」とすかさずつっこむ。
「っていうか、同じ学校……え?高校生?」
最後のは多分、夏碕に対してだと思う。
「二人とも二年生です」
「えっ……い、一個上!?」
ツンと拗ねたような表情をした夏碕に、彼―新名旬平―は唖然としていた。
多分彼のセリフは、一個しか違わないということに驚いているんだろう。夏碕とバンビ、それぞれ真逆の意味で。
「……ってことは、一年生?」
「あ、うん……」
驚いて口がふさがらない三人の頭上でHR開始のチャイムが鳴る。
「夏碕、バンビ!行かないと!」
「う、うん!あ、私小波美奈子!こっちは瑞野夏碕ちゃん!」
「あ……俺……新名、旬平……」
カレンに促されて走り出す私たちを、彼はぽかんと見つめていた。
ちょっとだけ胸騒ぎの予感がする。
また、バンビが新しい星を引き寄せたのかな。

20100725