ソロモン海域でつかまえて!



Vol.8 月面史上最悪の話@グラナダ

 月面、ちょうどフォン・ブラウンの裏側にあたる場所に、グラナダ市はあります。
 元々各コロニーに建設用資材をマスドライバーで送る役目がフォン・ブラウンにはあったのですが、真裏のサイド3には送ることが不可能だったため、グラナダに基地が作られたのです。
 そういうわけでグラナダとジオンの結びつきは強く、アナハイム・エレクトロニクスのグラナダ支社もジオンの人間が多いことで有名でした。
 今回は、そんなグラナダ市にフォーカスを…。



「これは……」

 ここは、アナハイム・エレクトロニクス、グラナダ支社のとある一室です。
 開発部門の責任者と技師が複数人、テーブルに会合しています。彼らが目にしているのは書類の束。私からだとよく見えませんが、開発部ってことは何らかの機体の設計書なのでしょうね。

「こんなものを……作れなどと……」
「無理だ!あまりにも無謀すぎる!」
「よしんば技術力があったとしても、これだけのものを作れるような資材が……」

「資材ならあるだろう」

 凛とした声のほうを振り向くアナハイム社員の目の先には、予想通りにジェーンバーキン中佐。
 どういうことなのか説明を求める社員をゆっくりと見回しながら、ジェーンは不敵な笑みを浮かべるのでした。

「マ大佐が打ち上げた鉱物資源を忘れたか?」
「!……しかし、あれを全て利用したとしても、これだけの数を生産するのは……」
「すでに我が手のものが小惑星帯から資源惑星を運んできている」
「……」
「そ、それでもです!こんな機体、そもそも技術が」
「案ずる事はない」

 会話から察するに、問題になっている開発書を提出したのはジェーン中佐なのでしょう。何を考えているのか皆目見当もつきませんが、オーバーテクノロジーな何かを開発するよう迫っているみたいですね。
 ジェーン中佐はもったいぶって髪をかきあげながら口角を上げます。

「戦中、我が軍に所属していた技師たちを連れてきている。人数の問題はあるまいし、みな腕も頭脳も超一流だ。設備さえあれば、アナハイムに頼ることもなかっただろうがな」
「……」
「と、言われましても」
「それから、機体の種類が種類だからな。こんなこともあろうかとニタ研の人間も連れてきている。いずれも兵器開発部門の人間だ」

 あまりにも周到な用意に、技師たちは黙り込んでしまいます。

「解っただろう?資金なら我が財団の全てを注ぎ込む覚悟だ。遠慮せず、各人の持ちうる技術を存分に発揮して欲しい」

 財団?技師たちも怪訝な顔をするのですが、中佐の言葉に口出しできるものはこの場にはいません。

「……解りました」
「期限は0083年の10月1日だ」
「……そんな、」
「出来るはずが……」
「何?」
「善処いたします」

 ざわめいた部屋を後にしながら、ジェーンは振り向きざま、

「これから私はグラナダを離れる。定期的に連絡をするが、火急の場合は多重衛星通信を用いて連絡をして欲しい。連邦にも、あのデラーズにも悟られんようにな」
「え、デラーズ閣下にも、ですか?」
「そうだ。これは……最重要の作戦なのだ」

 ギリと奥歯を噛み締めるようにして出て行ったジェーン中佐を見送ると、技師たちは手元の資料を広げて生産スケジュールを組むのでした。

「一体、何に使うつもりなのだろうか……あの人は」
「それよりだ、話している暇すら惜しい。こっちのビームライフルみたいなものはともかく、こっちは今までに見たこともない兵器だ」
「……そうだな」
「あ、名前がすでに付けられているな……ええと、バスターライフルに、サテライト・キャノン……」
「こっちはモビル・ドール・システムに……バイオ・コンピューター……」
「それはまだ名前からなんとなく想像はつくが、ドラグーン・システムとか、月光蝶ってのは何のことなんだ?」
「しかしなぁ……これはないよなぁ……」

『これが私の専用機!きっちり作ること!byジェーン

「「「ラフレシア……ねぇ……」」」

 ――――

 ジェーン中佐は部屋を出て、まっすぐに通路を歩いていきます。
 と、通路の途中に人影が……。

「待たせたな」
「いえ」

 すでに示し合わせていたようで、二人は並んで通路を歩きます。

「こちらの手配は済んだ……貴様のほうはどうだ。ヤツに動きはあったか?」
「私が用意した計画書に食いついたようです」
「やはりそうか……と、いうことは」
「ええ。すでにフォン・ブラウンを発っています」
「……」
「……お会いにならないので?」
「今は……まだ、そのときではない」
「……そうですね。中佐も、色々気持ちの整理が」
「いや、そうではなくてだな」

 ふぅと軽い溜め息をついて、中佐は掌をぐっと握り締め、

「あの作戦と同時に行う必要があるのだ……」
 バキッ
「中佐、万年筆を折らないで下さい」
「私というものがありながら……この容姿端麗頭脳明晰な私という最高の女がありながら……」
メリメリメリメリ
「中佐、なんでここにあるかわからないフライパンを巻かないで下さい」
「浮気などと!!!絶対に許さん!!!見ておれガトー……今に史上最悪の復讐劇を展開してやる……」
パキッ
「中佐、今度は……あれ?」
「パピコ食べる?」
「頂きます」

 どこから出したパピコ。

「ちなみにフライパンはヤラセだ」
「ですよねー」
「か弱い私がそんな芸当、できるはずもないだろう?……マンゴーヨーグルト、うまいな」

 ちなみに私はチョココーヒー派です。どーでもいいですけど。

「浮気されたのが悔しいなら浮気し返せばいいのに」
「どこのアントワネットだ貴様は。大体、浮気したくなるような魅力的な男もおらんのに……」
「いい男なら私が!ここに!」
「ララァの元に送ってやろうか?」

 いりません。さしもの私ももてあまします。
 ぐっさりと物理的に刺さるような痛烈な一言を、養豚場の豚でも見るかのような冷たい視線と共に浴びせ、ジェーン中佐はパピコを完食しました。

「さーてシャア、これからMSの操縦を教えてもらうぞ。悔しいが貴様はパイロットとしてだけは超一流だからな」

 一緒にいたのはシャア・アズナブル。
 階級はシャアのほうが大佐で上なのに……ま、敬語を使ってしまう人っていますよね。

「パイロットとしても、です。勘違いしないで下さい」
「勘違いしてんのはてめーだ。うぜぇ」
「教えて欲しくないんですか?」
「お給料欲しくないんですか?」
「……」
「……」
「行きますか……」
「フン!それでいいのだ」

 分別ゴミ箱にパピコの殻?を投げ捨てて、ジェーン中佐とシャア大佐は戦艦ドックへ向かいました。
 その先にあるものは、チべ級重巡洋艦の『グラーフ・ツェッペリン』です。とある将校が乗っていたのを終戦後黙って借りてきたんだとか。
 チベ級重巡洋艦にはMSも搭載できますが、果たしてこの二人、何を企むのでしょうか……。
 そして、シャアはいつの間に守銭奴になったのでしょうか……。
 次回!『ソロモン海域でつかまえて』、感動の最終話!宇宙を駆け巡る血みどろの愛憎劇!
 ララァ・スンがお送りします。

20090602